聖女候補――のピンチ(??視点)
逃げろ。逃げろ。そう思って必死に足を動かす。足は傷だらけになり、血がにじむ。でも、止まったら終わりだ。それが分かっていたから、足を必死に動かした。痛い。辛い。苦しい。そう思うけれど……後ろから迫ってくる「輩」から逃げるためには、足を動かすことしか出来なかった。
「はぁ、はぁ」
もう、体力が持たない。……そう思って、油断したのが命取りだった。後ろから「見つけたぞ!」という声が、聞こえてくる。……声に気が付いて、慌てて足を動かそうとしても腕を掴まれて動けなくなってしまう。……そして、その人が持つ短剣が目に入って……私は、思い切り目を瞑った。
「ミア!」
もう、無理だ。私がそんなことを直感した時、私の名前が呼ばれた。そして、私のことを襲おうとしていた輩が持っていた短剣が……弾き飛ばされる。その後、彼は私の腕を掴んで襲おうとしてきた男性たちに剣を向ける。
「クソっ、何故……!」
「お前ら、覚悟しとけよ!」
彼はそうおっしゃって、私のことを庇いながら襲い掛かってきた男性たちの攻撃を軽く躱していく。……さすがは、騎士団の副団長と言うべきなのだろうか。いや、そうとしか言えない。……しかし、何故彼は私のことを選んだのだろうか。そう、思ってしまう。
「エセルバード様!」
襲い掛かってきた男性たちを全員倒した彼――エセルバード様は、私の足の傷を見られると少しだけ眉を下げられた。
「ミア。お前……」
「これぐらい、なんてことありません」
「大丈夫とか、そう言う問題ではないだろ」
エセルバード様はそうおっしゃると、私のことを軽々と抱き上げてしまわれる。その後、ゆっくりと「……ちょっと、護衛でも雇うか」なんておっしゃる。……ただの小娘に、護衛なんて。
「エセルバード様。私ごときに護衛なんて……」
「そう言うと思った」
私の言葉を聞いて、エセルバード様はそれだけをおっしゃると「……お前、侍女として王宮で働かねぇか?」なんて意味の分からないことをおっしゃった。じ、侍女……? 確かに、行儀見習いとして貴族の令嬢が王宮で働くことは少なくはないけれど……。
「わ、私十九にもなっているのですよ!? 行儀見習いとかいう年齢じゃ、ありません……!」
「いいじゃねぇか。俺が王太子サマに頼み込んでやる。王宮ならば、警護がきっちりとしているしさ。お前も安心できるだろ。……ごり押しすれば、王太子妃サマの侍女にもなれるんじゃねぇかな」
そ、そんな……! そんなことで、エセルバード様の権力を使っていただくわけには、いかなくて……!
「ミア。お前は次期聖女候補だ。それに……あの女に、負けちゃいけねぇ」
「そ、それは、分かっていますが……!」
「じゃ、そう言うことで」
そうおっしゃったエセルバード様は、私の目をじっと見つめてこられる。……私は、確かに次期聖女候補に選ばれた。その所為で命を狙われているけれど、もう一人の聖女候補に負けてはいけない理由も、ある。
「それに、お前はこのエセルバード・バネルヴェルトの婚約者だろ? こんなところで、くたばる人間じゃねぇ」
「……そう、ですね」
でも、私はエセルバード様のその言葉に、静かに頷いていた。騎士団副団長の婚約者が、確かにそう簡単にくたばっちゃダメよね。……そうよ、そうに決まっているわ。
「よっしゃ。じゃあ、俺と一緒に目指そうな。今年の聖女」
「……はい!」
もう、この際何でもやってやろうじゃない。侍女だろうが、聖女だろうが。……エセルバード様の為にも。
(そうよ。私はエセルバード・バネルヴェルト公爵の婚約者なのだから……ここで、くたばっちゃいけないのよ!)
心の中で、そう唱えて私は真っ青な空を見上げた。空は、とても綺麗だった。
――第二部『陰謀の聖女選定の儀編』
本日から一週間、書籍発売を記念して毎日更新になります(n*´ω`*n)
書籍は今月9日発売です!
……第二部いきなり不穏な雰囲気で別キャラ視点ですが、次からアナスタシア視点に戻りますm(_ _"m)




