従者クラウスの断罪(6)
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聖女選定の儀が無事終了し、約半年の月日が経った。あれ以来、俺はジュリエット嬢のために西に東に、北に南に奔走していた。もちろん、王太子殿下の従者としての仕事も、きちんとやっている。しかし、いずれはこの仕事を辞め、のんびりと領地経営でもして過ごしたいという願望が、出来た。そうすれば、ジュリエット嬢ともっと一緒に居られるだろうし。
(……けど、平和なんてものは程遠いのかもな)
だが、俺はそう思う。宰相のデイミアン・エースについての噂を調べたとき、俺は正直「この国の将来は大丈夫か?」と思ってしまった。はっきりと言って、国王陛下や王妃様はあの宰相を信頼しているものの、あの宰相の噂は黒いを通り越して、どす黒かった。……王太子殿下に、それとなくお伝えしなければならない。こういう時、あの人はまだ「マシ」だ。
(あと、問題は――)
デイミアン・エースの後ろに付いた「誰か」が問題だった。その「誰か」は多分だが、王家の中にいる。……最有力候補はジェレミー殿下。……あのお方は、何をしでかすか分からないというのもあるし、何よりも……不気味なのだ。あの得体のしれない雰囲気に、時折見せる胡散臭い狂気に満ちた笑み。すべてが不安を煽る。
「クラウス」
「……はい、王太子殿下」
職務中に考え事はいけないな。そう思い直し、俺は自分の頬を軽くたたき、王太子殿下の元に駆け寄る。そうすれば、王太子殿下は「これ、新しい仕事」と言って俺に山積みの資料を手渡してきた。……これは、従者の仕事の範疇を超えているのでは?
「王太子殿下。お言葉ですが、これは貴方様が引き受けたお仕事では……?」
一番上の紙には、「王太子殿下へ」としっかりと書いてある。俺がやっていい仕事なのか。それが、分からない。
「大丈夫だ。これはただの手紙の仕分けだ。お前でも出来る」
「そうでしょうが……。と言いますか、王太子殿下の右腕的存在のシュトラス公爵は?」
「シュトラス公爵は最近俺の仕事を手伝ってくれないんだ。……妹と俺が婚姻したことが、相当不満らしい」
そうおっしゃった王太子殿下は「はぁ」と露骨にため息をつかれる。実際のところ、王太子殿下の仕事の内、王太子殿下本人がしなくてもいいものは全てシュトラス公爵が引き受けていた。しかし、最近のシュトラス公爵はご機嫌斜めであり、なかなか仕事を手伝ってくれないそうだ。
「……普通、それは実家が発展したと喜ぶべきことですよね?」
「あの男にとっては、実家の発展よりも妹の幸せの方が大切みたいなんだ」
「では、王太子殿下がアナスタシア様を大切にすればよろしいのでは?」
「無理だ。愛想が尽きている」
王太子殿下は俺の提案を一刀両断する。……本当は、愛想は尽きていないくせに。いや、尽きかけているうちには入るのだろう。しかし……まぁ、黙っておこう。人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られるし。
「まぁ、引き受けますけれどね。……俺がいなくなったら、この仕事どうするのですか?」
「そんなの、新しい腹心を探すだけだ。……だが、クラウスみたいなやつを探すのは大変そうだ」
その言葉が、嬉しいやら悲しいやら。微妙な気持ちにさせてくる。だが、俺にとって一番大切なのは王太子殿下ではなく、ジュリエット嬢。彼女との幸せの為、いずれはこの仕事を辞めるのだ。
「あ、そうだ。来年の聖女候補についてなのだが……いろいろと、見繕った結果がここにある」
そんな時、ふと王太子殿下がそんなことをおっしゃった。……もう、来年の聖女選定の儀の準備、か。まぁ、これが一国の一大行事なので仕方がないのかもしれないが、もう少し余韻に浸ってもいいのではないだろうか。……自分の妻が聖女というのは、誇らしいことだろうに。そう思いながら、俺は来年の聖女候補のリストを見つめた。
「……あの、これって――」
「……なんだ、何か問題があったか?」
その名前を目で追っているうちに、俺は顔が青くなるのを実感した。そこに書かれた一つの名前。それを見たとき、このままだと本当にまずいことになるのではないかと思った。
「……王太子殿下。実は、少し耳に入れたいことが」
だから、俺は王太子殿下にその情報を伝える。その言葉を聞いたからか、王太子殿下は「……それは、本当か?」と驚愕の表情を浮かべながら、俺に問いかけてこられた。なので、俺は静かに頷く。
(……このままだと、この国、本当に滅茶苦茶になるのでは――)
その俺の不安が、当たるのか当たらないのかは、また別の話。
そして――。
「クラウス。貴方の力を、貴方の情報網を、貸して頂戴」
真剣なまなざしで、真剣な表情で。彼女にそんなことを言われるなんて――この時の俺は、想像もしていなかった。
これにてクラジュリは終わりです(o_ _)o))ここまでお付き合いありがとうございました。
第二部は……『陰謀の聖女選定の儀編』というタイトルの予定です。
新しい聖女の誕生。しかし、そこに渦巻く王宮の陰謀。そんなテーマです。
最後になりましたが、このお話の総合評価が10000になったみたいです。誠にありがとうございます(n*´ω`*n)
第二部開始は月曜日を予定しておりますので、それまで完結表記にさせていただきますね。
書籍発売まで残り一週間を切っちゃいました……緊張で滅茶苦茶胃が痛いです(o_ _)o))




