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従者クラウスの断罪(2)


 迎えた聖女選定の儀の最終日。俺は、シャリエ子爵邸までジュリエット嬢を迎えに行き、パーティー会場に足を踏み入れていた。パーティー会場は王宮のものということもあり、とても豪奢で煌びやかだ。……まぁ、王家自体は財政難に近いのだが。それを感じさせないのは、それだけ無理をしているということだろう。


「あら、クラウスじゃない」

「アナスタシア様、どうも」


 俺がジュリエット嬢と歩いていると、不意に後ろから声がかけられる。その声は聞き覚えのあるものだ。その声に反応して後ろを振り向けば、そこには想像通りの人物がいた。さらさらとした茶色の髪と、桃色の瞳。どこか気高く、気品のある女性。――アナスタシア・シュトラス様だ。


「そちらの人は?」

「……知り合い、でして」

「あらそう」


 はっきりと「婚約者」だと告げることも出来た。しかし、それを言うのは無理だった。アナスタシア様がどういう行動に出るか分からない以上、こっちとしては弱点をさらけ出すわけにはいかない。なんだかんだ言っても、俺はアナスタシア様のことを悪人だとは思っちゃいないが、信じてもいない。商売相手としては最高だが、プライベートでは出来る限り関わりたくない人物ということ。


「アナスタシア・シュトラスよ。貴女、お名前は?」

「じゅ、ジュリエット・シャリエ、と申します……」

「そう、ジュリエットね」


 アナスタシア様は馴れ馴れしくもジュリエット嬢のことを呼び捨てにされる。しかし、ジュリエット嬢は不満一つ見せず、ちょっとひきつったような笑みを浮かべて頷いていた。……不満がどうこうというよりも、緊張の方が上なのかもしれない。なんといっても、アナスタシア様は名門公爵家のご令嬢だから。


「今日は大層な記念日よね。だって、他でもない私が聖女に選ばれるのだから」

「……それは、分かりませんよ」

「あら、でも確実に私よ? だって、私だもの。麗しのシュトラス公爵家の令嬢が、あんな小娘に負けるわけがないわ」


 そうおっしゃったアナスタシア様は、くすくすと声を上げて笑われる。……相変わらず、だな。こういうところが、王太子殿下と慣れ合えない要因なのだろう。アナスタシア様は王太子殿下を好いている。しかし、その感情は一方通行。……昔は、そうじゃなかったはずなのにな。なんて、余計なお世話か。


「っていうか、クラウスだったらもうすでにどちらが本物の聖女なのか、情報を手に入れているのではなくて?」

「もしもそうだったとしても、外部には漏らしませんよ。だって、そう言う規則ですから」

「そうでしょうね。私も、貴方のそう言うところだけは気に入っているもの」


 ……本当に、可愛らしくない女性だ。もう少し、ジュリエット嬢を見習ってほしい。そう思うが、そんなことを口に出せばアナスタシア様は癇癪を起こすだろう。その場合、シュトラス公爵が駆けつけて来てややこしいことになるのは目に見えている。……あのシスコン公爵め。もう少し妹をきちんと教育しろよ。


「まぁ、私はこちらで失礼させていただくわ。この後、ウィリアム様の婚約者として挨拶回りがあるの。では、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう……」


 アナスタシア様のお言葉に、ジュリエット嬢が律義に言葉を返す。だから、俺はこっそりと「アナスタシア様に、そこまで怯える必要はないですよ」とだけ耳打ちしておいた。


「えっと……」

「あの人は、苛烈でわがまま、高飛車だけれど、悪い人ではない。……高位貴族の典型的な令嬢と思えば、いいから。……そう言う人、多いでしょう?」

「……そうですね」

「さて、そろそろ――あの女の、入場でしょうね」


 俺がそうぼやいて入口の方を見据えれば、そこにはキャンディ・シャイドルが、いた。いつも通りたくさんの人に囲まれ、笑顔を浮かべている。だが、その笑みは俺から見れば「悪魔の笑み」にしか見えない。あの笑みの奥に、どんな毒を隠し持っているのか。その毒の量は計り知れないが、人を致死に追い込む毒であることに間違いはない。


「クラウス」

「……王太子殿下」


 こっそりとキャンディ・シャイドルを睨みつけていると、少し離れたところから俺のことを呼ぶ声が聞こえてくる。そちらに視線を向けてみれば、そこには隠れるような体勢で俺のことを手招きされる王太子殿下が。……キャンディ・シャイドルが苦手とはいえそう言う格好の悪い体勢はいかがなものかと。


「王太子殿下。格好悪いですよ」

「いや、いいんだ。そもそも……あの女に見つかるよりも、ずっとマシだ」


 そうおっしゃって、王太子殿下は額に手を当てられる。その目は揺れており、口からは「近づかれたくもない」「寒気がする」なんて格好悪すぎる言葉が零れだす。……本当に、このお方は実は『ポンコツ』だ。


「断罪の準備は、整いましたか?」

「あ、あぁ、シュトラス公爵が最後の準備をしてくれている。あと、バネルヴェルト公爵に頼み、パーティー会場を包囲してもらっている」


 ……こういうところは、きっちりとしているのになぁ。俺はそんなことを心の奥底で思いながら、未だにぶつぶつと何かを呟かれる王太子殿下を、見つめていた。

書籍発売二週間前ということで、本日から二日に一回程度の更新になりますm(_ _"m)

発売の五日前からは、毎日更新をやりたい……です(願望)(´・ω・`)

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


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