従者クラウスの断罪(1)
「王太子殿下、いかがでしょうか?」
「……あぁ、まぁまぁと言ったところだが、最終日にはしっかりと間に合わせる。悪事の証拠を後はまとめるだけだしな」
とある日の午後。聖女選定の儀の最終日を三日後に控え、俺、クラウス・ギャロウェイは主である王太子殿下と、シュトラス公爵と共にキャンディ・シャイドルの悪事の証拠をまとめていた。
三日後、今年の聖女が発表される。今年の聖女はシュトラス公爵の実の妹であり、王太子殿下の婚約者という素晴らしい身分のアナスタシア・シュトラス様に決まった。正直、彼女も聖女のような人格者ではないものの、キャンディ・シャイドルよりはずっとマシだ。だって、キャンディ・シャイドルは俺の大切なジュリエット嬢を傷つけようとしたから。
「ところで、お前の婚約が決まったそうだな。おめでとう」
「……それ、ここで言いますか?」
「あぁ、そうだったのか。おめでとう、クラウス」
「シュトラス公爵まで乗っかってこないでくださいます?」
正直、婚約が決まったのはとても嬉しいが、今ここで言うことではないと思う。今はそれよりも……重要なことがあるから。
「そう言えば、バネルヴェルト公爵は?」
「……公爵は一人で自由気ままに行動しているさ。あの人は、人に縛られることを嫌う。それは、お前も分かっているだろう?」
「まぁ、そうですけれどね」
王太子殿下のその言葉を聞いて、俺は納得する。バネルヴェルト公爵。あの人は、公爵という身分を持っているとは思えないほど、自由奔放な人だ。人に縛られることを嫌い、婚約することさえ嫌がっている。……最近、いい人が現れたそうだけれど。
「よし、最終日まであと少しだ。最後まで気を引き締めて行けよ」
「分かっているさ、シュトラス公爵」
「承知しています」
シュトラス公爵の言葉に俺と王太子殿下は頷き、心を落ち着けた。……大丈夫、キャンディ・シャイドルのことを断罪出来る。いや、しなくてはならない。ジュリエット嬢を守るためには、あの女を生かしておくわけにはいかない。
(本当はジュリエット嬢を監禁しちゃいたいけれどさ……それは、出来ねぇよな)
心の中でそうぼやきながら、シュトラス公爵から出された書類に目を通す。相変わらず、シュトラス公爵は同じ人間とは思えないほど優秀で、有能。この人が王族だったら俺も苦労しなかったのかな……なんて。なんといっても、俺の主である王太子殿下はポンコツなところがあるから。
「おい、クラウス。今、お前、失礼なことを考えただろう?」
「いえいえ、全く。王太子殿下が『ポンコツ王太子』だなんて、微塵も思っていませんよ~」
「思っているじゃないか!」
王太子殿下に睨まれそう凄まれるものの、俺はどこ吹く風だ。なんだかんだ言っても、この人は理不尽を嫌う。さすがはお人好し王家の血が入っている……と言えばいいのだろうか。まぁ、とにかく。この人は理不尽な理由で人を解雇しない。……ポンコツだけれどさ。
「アナスタシア様と、上手く行っていますか?」
そして、シュトラス公爵が席を外した隙に、俺はこっそりと王太子殿下にそう耳打ちする。そうすれば、王太子殿下は「……上手く行くも何も、ないだろう」とそっぽを向いてしまわれた。……こりゃあ、上手く行っていないな。王太子殿下、こう見えて昔はアナスタシア様に恋をしていたのに。初めのころは、アナスタシア様と婚約出来て喜んでいたところがあるのだ。……まぁ、アナスタシア様は苛烈な性格だし、ちょっと行き違いがあるのだろう。
(アナスタシア様の行動原理が『好意』だって教えてあげた方が良いのかなぁ。でも、それは自分で気が付かなくちゃ意味がないだろうし……)
この『ポンコツ王太子』の世話は結構大変なのだ。なんといっても、この人は――かなり鈍感だから。俺が恋をしていることも、気が付いていなかったし。
(じゃ、最後の仕上げと行きますか。……当日は、ジュリエット嬢の意向も訊いて行動しなくちゃな)
ジュリエット嬢が最後までことを見届けたいと言えば、俺はジュリエット嬢と共に断罪の場に赴く。ジュリエット嬢が嫌がれば、俺は一人で行動する。
(待ってろよ、キャンディ・シャイドル。楽しんでいられるのも今の内だ)
ジュリエット嬢を傷つけたことを、地獄の底で後悔すればいい。俺はそんな悪魔のようなことを考えながら、口角を上げた。
書籍は4月9日発売です(n*´ω`*n)緊張しすぎて胃が痛いですが、更新も頑張ります……!(下の方に表紙を張り付けています。とても美しいイラストなので、イラストだけでも見て行っていただければ、と)




