子爵令嬢ジュリエットの初恋(15)
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「ジュリエット!」
「お父様、お母様!」
それから約二時間後。私は無事シャリエ子爵邸に戻ってくることが出来た。どうやら一足先にクラウス様の同僚のお方が、お父様とお母様に私の無事を知らせてくださっていたらしく、お二人は邸の外で待っていてくださった。そして、私を見つけると駆け寄ってこられて強く抱きしめてくださった。
「良かった、貴女が無事で、本当に良かった……!」
お母様は涙を拭いながら、そうおっしゃる。お父様もお隣でそのお言葉に同意してくださっており、私はお二人の温かさを実感することが出来た。後ろではクラウス様がいらっしゃり、お父様はクラウス様を見つけられると静かに頭を下げられる。
「クラウス様。今回は娘を助けていただき、誠にありがとうございます……!」
「……いえ、俺一人の力じゃありませんよ」
「そうだったとしても、です。それに……貴方と出逢えて、娘は本当に元気になったんです」
お父様は、何度も何度も「ありがとうございます」とクラウス様に声をかけられる。そんなお礼の言葉を、クラウス様は少し複雑な表情で受け止められていた。……きっと、クラウス様はご自身が私の誘拐事件の原因であるということを気にしていらっしゃるのだ。……そんなの、気になさらなくていいのに。
「……ここからは多分の話なのですが、ティハニヒ伯爵家は取り潰しになる可能性があります」
「……そう、ですか」
「誘拐、殺人未遂で罪人を出してしまいましたから。普通の貴族ならばまだしも、ティハニヒ伯爵家は神殿持ちなので……」
クラウス様は、そんなことをおっしゃる。神殿持ちの領地は、清い貴族しか治めることが許されない。それは、二百年以上罪人を出していないというのが第一前提。だから、ヴィクトール様が罪人になってしまった以上、お家は取り潰しになる。もしくは、領地を取り上げられることになるのだ。
「その後継者なのですが……俺、一つの提案を王太子殿下にしてみようと思うんです」
「……クラウス様?」
「ティハニヒ伯爵家の元領地を、シャリエ子爵家が新しく治めるんです」
「そ、それは……!」
クラウス様のそのお言葉は、とても魅力的だ。しかし、私たちのような弱小貴族が神殿など持てるわけがない。それは、お父様にだってわかっていらっしゃるのだろう。表情が、少し複雑そうだ。
「クラウス様。私たちのような末端貴族では……」
「……神殿持ちの領地を治める条件は、清い貴族です。幸いにもシャリエ子爵家はその条件を満たせている」
「……それは、そうですが」
確かに、シャリエ子爵家は歴史上一人も罪人を出していない。というか、あまり歴史のある貴族ではないということが大きいのだろうけれど……。
「王太子殿下は、それで納得されるのでしょうか?」
「それは、分かりません。ですが、耳ぐらいは傾けてくださると思いますよ。なんといっても、あのお方は――お人好しですから」
そうおっしゃったクラウス様は、にっこりと笑っていらっしゃった。その表情はとても魅力的で。私の胸は……知らないうちに高鳴ってしまう。あぁ、恋ってすごいものだ。愚かとか言われるかもしれないけれど、それでも、構わない。
「王家は全体的にお人好しですからね。あの人も、冷酷だとか冷血だとか思わせておいて、結構お人好しですよ。……じゃないと、俺みたいな輩を腹心にはしませんよ」
そして、クラウス様はそうおっしゃって私に微笑みかけてくださった。そのお言葉にはなんと返せばいいかが分からなかったけれど……その表情はとても魅力的でかっこいい。だから、私は顔が真っ赤になるのを自覚してしまう。
「ジュリエット嬢。では、俺は一旦帰りますが。……また、今度ゆっくり会いましょうね。それまでに、俺がいろいろなことを片付けておきますから」
「……はい」
正直、全てをクラウス様に任せてしまうのはいかがなものかと私も思う。そう思うけれど、きっとクラウス様は私が手伝うことを良しとはされないだろう。それが分かっていたから……私は、別の意味でクラウス様を支えたいと思った。支えるのも、いろいろな形があるから。
「ジュリエット嬢。……俺は、貴女が好き、ですからね」
別れの直前。最後とばかりにクラウス様は私にだけに聞こえる音量でそうおっしゃった。そのお言葉を聞いて……私は、また顔が赤くなってしまった気が、した。本当に……反則、です!
本来は昨日更新予定だったのですが、体調不良で今日に回しました、すみません(o_ _)o))




