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子爵令嬢ジュリエットの初恋(13)


「んんっ」


 重苦しい瞼を開ければ、そこはどこかの倉庫か何かのようだった。埃っぽく、むせてしまいそうな程のカビのにおいが漂ってくる。ゆっくりと起き上がろうとすれば、手はしっかりと縄で縛られており、さらには足も縛られていた。……なんで、私はこんなことになっているんだろうか。


「……なんで、こんなことに」


 何故、こんなことになったのだろうか。誘拐の主犯は大方ヴィクトール様かキャンディ様だと思う。しかし、こんなことをされる筋合いはない。だって、私はクラウス様のことが好き。彼とは真剣に向き合っているつもり……だ。そのため、人様に口を出されたくない。そう、思う。……そう思えるだけ、きっと私は成長したのだろう。


 そんな時、後ろからカツカツという靴の音が聞こえて来て、私はゆっくりと首だけでそちらの方を見つめる。すると、そこには神妙な面持ちで質素な格好をされたヴィクトール様がいらっしゃった。その後、彼は「……ジュリエット嬢」と私の名前を呼んでくる。その瞳はどこか仄暗く、私の幼馴染であるヴィクトール様とは別人のようにも見えた。


「……ヴィクトール様、何故……」


 だから、私はヴィクトール様を睨みつけるように見つめた。そうすれば、ヴィクトール様は「……ジュリエット嬢が、悪いんじゃないか」なんておっしゃった。……私が、悪いなんて。私は、何も悪いことなんてしてない。胸を張って、そう言える。


「キャンディ様はジュリエット嬢に散々傷つけられたとおっしゃっているんだ。だから、キミにはそれ相応の苦しみを味わってもらわなくちゃ、俺の気が済まないんだ」

「……ヴィクトール様は、私のお話を聞いてくださらなかった……じゃない、ですか」

「だって、キミの話なんて聞く価値もないじゃないか」


 ヴィクトール様は、私を憎々しいとでも言いたげににらみつけて、そうおっしゃった。……前までのヴィクトール様だったら、こんなことはなかった。私のたどたどしい話し方にも、まともに付き合ってくださった。……彼は、キャンディ様に魅了されている。それが悲しいような、悔しいような。不思議な気分で、私はぎゅっと手のひらを握り締めた。


「前までのヴィクトール様だったら、そんなこと……」

「何? 俺が退化したとでも言いたいの?」


 私の言葉に、ヴィクトール様はそんなことを返してこられると、私の方にさらに近づいてこられる。それが怖くて、殺されるんじゃないかって思って、私は必死に後ずさった。とはいっても、足は縛られているし手も使えないから、本当にゆっくりのスピードだった。その所為で、簡単に捕まってしまう。そして、長い髪の毛を乱暴につかまれて私に激しい痛みが襲ってくる。……ぶちぶちという音が聞こえて、何本かの髪の毛が千切れたような気も、する。


「……来ないで! 触らないで!」


 でも、私は抵抗を止めなかった。きっと、クラウス様に出逢う前だったらいろいろなことに諦めて、もう生きることを諦めていたと思う。だけど、クラウス様に出逢ったから、私は彼と一緒に生きていきたいと思っている。そのためには……今、諦めるわけにはいかないのだ。


「ははっ、ジュリエット嬢は変わったよね。……その変化が、憎たらしいんだよ」


 そんな私を一瞥されると、ヴィクトール様は口元を歪められて懐から短剣を取り出される。その後、私の髪の毛を離して壁際に突き飛ばす。その結果、私は壁にぶつかり背中に鈍い痛みが走った。


「前までのおどおどとしたジュリエット嬢の方が、いろいろと良かったのにね。今のキミは……本当に、目障りだ」


 ヴィクトール様はそんなことをおっしゃると、私の顔の真横の壁に短剣をいったん突き刺す。その音が怖くて、私は「ひぇ……!」という情けない声を上げてしまう。……本当に、私はここで殺されるのだろうか? 嫌だ。死にたくない。私は……クラウス様と一緒に、生きていきたい。


「来ないで! 放して!」


 もしかしたら、時間を稼げば誰かが助けてに来てくれるかもしれない。そんな小さな希望に縋るように、私は必死に抵抗をした。


(私が何時間眠っていたのかは分からないけれど……馬車が襲撃されてかなりの時間が経っているはず。だったら……捜索が始まっていても、おかしくない……!)


 このまま大人しく死ぬのだけは、嫌だった。だから、私はヴィクトール様を強くにらみつけ続ける。……お願い、誰か、誰か……来て!


(このまま、死にたくないの。神様、お願い……!)


 それに、幼馴染のヴィクトール様を殺人犯にもしたくない。少ないけれど、私はまだ彼に情が残っているのだ。だから、私の為にも、ヴィクトール様の為にも。私は……死んじゃいけないんだ!


「誰か、助けてっ!」


 私は私が出せる最大の音量でそう叫んだ。その瞬間、ヴィクトール様の顔がさらに歪み「黙れ!」と私のことを脅してこられる。そして、私の頬を思いっきりたたいてくる。……痛い。口の中が切れたのか、血の味もする。だけど、だけど……!


「私は、生きていきたいの。だから……今ここで、貴方に殺されるわけにはいかないのよ!」


 私は、絶対に生きるんだ。そんな私自身の意思を……ヴィクトール様に、ぶつけていた。

書籍発売までちょうど一ヶ月ですね……(´・ω・`)怖いです。

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


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