子爵令嬢ジュリエットの初恋(11)
「そう言うわけで、あの女の中身は聖女とは程遠い存在で、気を付けるに越したことはないんですよ」
クラウス様は、私にキャンディ様についての説明を終えると、「はぁ」と露骨にため息をつかれていた。……しかし、私はそれにイマイチ納得できなかった。キャンディ様の本性については、納得できた……と思う。でも、たった一つだけ彼女の行動には意味が分からないところがある。それは……何故、私を攻撃してきたかということ。
「あ、あの……一つ、いいですか?」
「はい」
「なんで……キャンディ様は、私に攻撃してこられたんですか? 私、彼女と関わったことなんてないですし、彼女に敵意を向けられる意味も、分からないんです……」
私はキャンディ様と直接かかわったことなどないし、それどころか直にお話したこともない。だったら、何故私はキャンディ様に恨まれ、攻撃されているのだろうか。……もしかしてだけれど、クラウス様関連、かな? クラウス様はとても人気のあるお方だから。あと、ヴィクトール様という可能性もあるけれど……。
「……それは」
私の問いかけを聞いて、クラウス様は露骨に視線を逸らされる。……それを見たとき、私は理解した。……キャンディ様が私を攻撃してきた理由は、私がクラウス様と親しくしているからなのだろう、と。クラウス様のお話によれば、キャンディ様は王太子殿下にお近づきになりたいようだけれど、他の男性にもすり寄っているところがあるらしいから……。
「わ、私、クラウス様が原因だとしても、離れたりしません、から……」
だから、私はゆっくりとかみしめるようにそう言っていた。私はクラウス様が好き。クラウス様に恋をしている。そのため、クラウス様から離れるなんて選択肢、ないの。……クラウス様を好きになってしまった時点で、恋敵が多いであろうことも予想出来ていたから。
「そう、ですか。……まぁ、ジュリエット嬢の言う通りなんですよ。キャンディ・シャイドルは王太子殿下の他、シュトラス公爵、俺、それからバネルヴェルト公爵に何故かご執心なんです。正直、俺ら全員飽き飽きしているんですけれどね……」
クラウス様はそうおっしゃると、また「はぁ」と露骨にため息をつかれた。その男性のラインナップを聞いて、私はなんだか微妙な気持ちになってしまう。シュトラス公爵と言えば、王国でも名門中の名門貴族の当主様だし、バネルヴェルト公爵は現騎士団副団長で将来有望な男性……だと言われている。しかも、みなそろいもそろって見た目麗しい。……なんというか、それを聞いたらキャンディ様に呆れてしまった。しかも、ヴィクトール様方も魅了されているようだし……女性からの印象は相当悪そうだ。
「じゃあ、私は……」
「えぇ、そう言うことです。俺も、攻撃される可能性は少なからずあると思っていました。だから、手紙でそれとなく訊いたりしていたんですけれど……。でもまさか、ティハニヒ伯爵家の令息を使って攻撃してくるなんて、予想外で」
そんなクラウス様のお言葉を聞いて、私は「……私も、あまり信じたくなかった、です」と答えることしか出来なかった。ヴィクトール様は、私にとって幼馴染のような存在。今までそれとなく仲良く過ごせていたのに、キャンディ様の所為でその関係が滅茶苦茶になるなんて。それが、何よりも悲しかった。……こんなこと、私が思っていいのかは、分からないのだけれど。
「そうだ。シャリエ子爵家のことですが、これからはギャロウェイ男爵家が全面的にバックアップすることにしました。ギャロウェイ家は男爵家ですが、俺が王太子殿下の従者をしていることとか、大きな商会を持っていることからそこそこ社交界では発言権があるんです、実は。だから、これからはティハニヒ伯爵家に変わって後ろ盾になります」
「……ありがとう、ございます」
「いえ、婚約者に対してはこれぐらい当然ですから」
……まだ、婚約者じゃないんだけれど。そう思ったけれど、そんなツッコミは脳内に置いておいた。それに、私の胸の中にはどうしようもないほどの感謝の気持ちが、芽生えていた。ティハニヒ伯爵家と縁を切られそうな今、藁にもすがりたい思いだった。そんな私の気持ちに、クラウス様は寄り添ってくださっている。それが、何よりも嬉しかった。
「……でも、正直俺としてはジュリエット嬢にこのままここに住んでもらいたいんですけれど……」
「あ、あの……?」
「いえ、こちらの話ですよ。……あ、そうだ。邸の中を案内したりしますよ。気分転換にはなるでしょうから」
不安から表情を歪めてしまった私に、クラウス様はただそうおっしゃって笑みを向けてくださった。その気持ちが――とても嬉しくて。それと同時に、胸がとても温かくなった。ずっと、この人と一緒に居たい。この時は確かに……そう、思えていた。
バネルヴェルト公爵は四人目の攻略対象で、第二部に出てきます……(´・ω・`)四人目、忘れられている気しかしないんですけれどね……。




