子爵令嬢ジュリエットの初恋(10)
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「ジュリエット嬢? どうされたのですか? 顔色が優れないですが……」
「い、いえ、何でもないのです、クラウス様」
ヴィクトール様に怒りを一方的にぶつけられてから数日後。私はギャロウェイ男爵邸に招待されていました。ギャロウェイ男爵邸で出迎えてくださったのは、クラウス様のご両親とお兄様。皆さんとても明るいお方であり、私の緊張をほぐしてくださった。……しかし、この間のこともあり私は少々寝不足気味だった。そこを、クラウス様に見抜かれてしまった……らしい。
「何でもないわけないでしょう。俺、そんなに頼りない……ですか?」
「そ、そう言うわけじゃあ……」
クラウス様に顔を覗きこまれて、私はただそう言うことしか出来なかった。別に、クラウス様が頼りないわけじゃない。ただ単に、これは私の家の問題だというだけなのだ。それに……クラウス様にこれ以上迷惑なんてかけたくなかったのが本音。クラウス様ならば、きっと私の力になってくださる。でも、それが分かっていたからこそ……尚更、巻き込みたくなかった。
「……ジュリエット嬢。俺は、ジュリエット嬢の力になりたい。確かに俺は男爵家の息子で、主や高位貴族の様に権力はないかもしれない。だけど……ジュリエット嬢を想う気持ちだけは、本物なんです」
なのに、クラウス様は優しく私の心を溶かすかのようにおっしゃった。……そのお言葉が嬉しくて、嬉しくて。私は――涙をこぼしてしまった。ポロポロとこぼれていく涙。それは、幼馴染に怒りをぶつけられたことからなのか。はたまた、クラウス様の優しさに心を溶かされたからなのか。それは、分からなかったのだけれど。
「わ、私……この間――」
だからだろう、私は自然とこの間のことをポツリポツリと話し始めた。ヴィクトール様に間違いで怒りをぶつけられたこと。ティハニヒ伯爵家と縁を切られそうなこと。そうなれば、シャリエ子爵家は社交界での低い立場がさらに低くなってしまうであろうこと。それを、全てお話した。本当は、話したくなどなかったのに。
「……一つだけ確認、いいですか? そのヴィクトール様は『キャンディ様が』って、おっしゃっていたんですよね?」
「は、はぃ。多分、何かの間違いだと思うんですけれど……」
私のたどたどしいお話を聞いたクラウス様の表情が、硬くなっていく。そして……「あの女」なんてぼやかれていた。あの女? それは……誰のこと? 今のお話の内容からすれば、キャンディ様のことかと思ったけれど……キャンディ様は聖女候補。そんな悪いことをするようなお方じゃない……はず。
「……ジュリエット嬢。いいですか? これからはヴィクトール・ティハニヒと縁を切ってください」
「そ、その、そんなことを、したら……」
「良いんですよ。そのヴィクトール・ティハニヒは……恋に溺れているのですぐに破滅します」
「は、破滅!?」
クラウス様のおっしゃっていることが、イマイチ理解できなかった。でも「破滅」という単語の意味だけは、分かった。……ヴィクトール様が、破滅? それって……ティハニヒ伯爵家も、ということでしょうか?
「そ、その、どういう意味で……」
「主は今、キャンディ・シャイドルの断罪準備をしています。……あの女は、いろいろとヤバい存在なんですよ」
なのに、戸惑う私を他所にクラウス様はそんなことを熱弁された。キャンディ様のお家が、詐欺まがいのことを行っているということ。そして、彼女自身もかなりヤバい存在だということ。それを聞いた時……私は、何故かヴィクトール様のあの表情を思い出してしまった。そうだ。あれは、恋をしている人間の表情じゃ、なかった。あれは……何かを狂信、もしくは崇拝している人の態度であり表情……だったかも、しれない。
「キャンディ・シャイドルは聖女の座と王太子妃という座を狙うつもりだった。そして、国を乗っ取るつもりだったんですよ」
「……あ、あの、王太子殿下の婚約者はアナスタシア様であり、王太子妃という座は無理なのでは……」
「……確かに、普通に考えればそうですね。でも、そこにもいろいろと理由があるんですよ」
クラウス様の表情はとても真剣で、嘘を言っているようには私には見えなかった。だから、私はクラウス様のお話を真剣にじっと聞いていた。そして……知ってしまった。
――キャンディ・シャイドル様の本性を。聖女の仮面をかぶった、悪魔のような少女の存在を。
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