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子爵令嬢ジュリエットの初恋(8)


 それから数秒後。場に流れるのは沈黙だった。……やっぱり、ダメに決まっているわよね。クラウス様ほどのお方になると、私なんて……論外に決まっている。


「……忘れてください」


 そんな場の沈黙に耐えられなくて、私はただ俯いてそう言うことしか出来なかった。失恋、したのよね。そう思ったからか、涙がポロポロとこぼれてきた。……あぁ、違う。これから、別のことを言わなくちゃいけないのに。相談、するつもりだったのに。こんな状態じゃ、相談できない。


「そ、その! 残りのお話はやっぱりお手紙でお伝えしますね! なので……本日は、失礼いたします!」


 こうなったら、もういつもの癖で逃げることしか出来なかった。私は持ってきた小さな鞄を手に取って、お金を置いて身をひるがえして立ち去ろうとする。なのに……出来なかった。だって、クラウス様が私の手首を掴まれていたから。……なんで、なんで引き止めるの? 今はそんな優しさ……辛いだけなのに。


「ジュリエット嬢」

「……優しく、しないでください。どうせだったら、派手に拒絶してください。お願いです。もう……惨めになりたくない」


 元々、貴族の令嬢なのだから恋なんて諦めるべきだったんだ。今更ながらに、そんなことを思ってしまう。涙が頬を伝って、床に零れ落ちていく。お願い、もう、私を、放して。私を、自由にして。いっそ、拒絶して。そう思うのに、口ははくはくと動くだけで言葉にはならない。


「わ、私たち、これでも貴族ですもんね。恋なんて……するべきじゃ、なかった」

「ジュリエット嬢!」


 また逃げ出そうと、視線を彷徨わせる私の視界にクラウス様は入ってこられた。その後「それは、本気ですか?」なんておっしゃってこられた。……本気って、何がだろうか? 告白のこと? そんなの……本気に決まっているじゃない。


「本気です。本当に本当に……好き、だったんです」

「じゃあ、いいじゃないですか」

「……何が、ですか?」


 クラウス様の「いい」とは一体どういう意味なのだろうか? そんなことを思って私が瞳をぱちぱちとさせていると「……俺も、ジュリエット嬢が好きです」なんてクラウス様はおっしゃった。……嘘、嘘嘘嘘。そう言う嘘が、今この場で一番私を惨めにするのに。私なんて……好かれる要素、ゼロじゃない。


「そう言う嘘、止めてください」

「嘘じゃない。俺は、好きじゃない相手と文通なんてしない。ジュリエット嬢だから、文通したんです。いずれ、俺の方から婚約打診をするつもりだったんです。まぁ、なんて言うか……すっごくかっこ悪い結果になっちゃって。それで、戸惑っただけ、だから」


 そんなことをおっしゃったクラウス様は「俺と、婚約、してくれますか?」なんて私の顔を覗きこんでおっしゃった。……これは、夢じゃないの? そんなことを思ってしまい、私は自分の手の甲を思いっきりつねる。痛い。けど、目が覚める気配はない。夢じゃ……ない。


「わ、わた、私なんかで……」

「その言い方はやめよう。ジュリエット嬢は自分を卑下しすぎだから。……もっと、自信をもって。俺が好きになったジュリエット嬢は、とても輝いている」


 私の口癖である自分を卑下する言葉を聞かれたクラウス様は、そんなことをふんわりと笑われておっしゃった。……そう、よね。自分を卑下するということは、私を好きになってくださったクラウス様のことさえも卑下するということ。……やめよう。


「私も、クラウス様が好き……です」


 だからだろうか、もう正直に自分の気持ちを伝えることしか出来なかった。脅迫のこととか、もうこの時には頭からすっぽりと抜け落ちていた。嬉しさとか、もどかしさとか。複雑な感情が心を支配して、何を言えばいいかが分からなくて。私はこの時確かに――幸せの絶頂に、いた。


 だから――。


「何よ、あの女。この世界のバグかしら?」

「キャンディ様、どうかしたのですか?」


 私たちのことを、憎々しげに見つめている二人組がいたことになど、気が付きもしなかった。さらには、そのお一人が――。


「いいえ、何でもありませんわ。――ヴィクトール様」


 他でもないヴィクトール様であり、もうお一人が聖女候補のキャンディ様だったなんて、考えもしなかった。

この番外編20までには終わらせるつもりなんですけれど、終わるか分からなくなってきました(´・ω・`)なんとしてでも25までには終わらせたい、ですね……。

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悪役令嬢離縁表紙


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