子爵令嬢ジュリエットの初恋(7)
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「く、くくくく、クラウス様!」
「ジュリエット嬢、まずは落ち着いて」
それから数日後。私は王都にあるカフェにてクラウス様とお会いしていた。というのも、いろいろとお話したいことがあると私がクラウス様にお手紙で伝えたところ、クラウス様が直に会いたいとおっしゃってくださったのだ。王都にカフェにしたのは、いざというときに人目がある方が良いと思ったから。……やっぱり、怪しまれるような行動は慎みたい。だから、二人きりなんて絶対にダメ!
「そ、その、本日はお時間を作っていただき誠にありがとうございます……!」
我ながら、パニックになりすぎだと思うけれど仕方がない。目の前には輝かしいばかりのお顔が、笑みを浮かべていらっしゃるのだ。私なんかじゃ足元にも及ばないぐらいの美形が、目の前にいらっしゃるのだ。とてもじゃないけれど、冷静でなんていられない。……あと、たくさん人がいる場所だからいろいろと怖い。久々の外出、怖すぎる。
「いや、別に。俺ももう一度ジュリエット嬢と会いたいって思っていましたし」
なのに、パニックになる私とは真逆でクラウス様は冷静に紅茶を飲まれていた。……うぅ、私のダメ具合が際立つ。でも、マリーに背中を押してもらった。私は、クラウス様に直に相談した後、言わなくちゃいけないことがある。……それで散ったのならば、もうそれは運命だったと諦めるしかないのだ。
「……く、くく、クラウス様!」
「はい」
クラウス様は、パニックになっている私に怪訝な視線一つ向けられずに、ずっと笑みを浮かべていらっしゃる。うぅ、お優しい。私なんて、カップを持つ手がガタガタと震えていて今にも紅茶が零れだしそうなのに。
「そ、そ、その! わ、私、お伝えしたいことがありまして……!」
「知っていますよ。でも、まずは落ち着きましょう」
「お、お、落ち着いています!」
いや、嘘、です。全く落ち着いていないです。クラウス様と知り合って、私は強くなろうと頑張った。人見知りも直そうと思ったのに……それだけは、どう頑張っても直らなくて。未だにこんな感じだけれど、頭の中が真っ白にならないだけ成長したともいえる。そう思い直して、私はとりあえずとばかりに紅茶を一口飲んで、ゆっくりと深呼吸をした。……大丈夫、大丈夫。絶対に、大丈夫。
「……好き、なんです」
「……はい?」
でも、私の脳と反して口から出てきた言葉は――私が最後に伝えるはずの言葉だった。あれ? なんで? 私、まずは脅迫についてのことを相談するつもりだったのに。なんで……「好き」なんて言葉が出てきているの?
「あ、そ、その……ちが……違わない、んですけれど、その……」
違うって言ったら、私の気持ちを勘違いされる。そう、私はクラウス様が好き。けど……こんな風に告白するつもりじゃなかった。どうやって、誤魔化せばいい? そんな風に、私の脳内がパニックになる。顔に熱が溜まって、真っ赤になっていく気がした。それを隠したくて、私は俯いた。クラウス様に、どうか先ほどの言葉が届いていませんように。そう、祈った。
「……えーっと、ジュリエット嬢? 聞き間違いではなかったら、今『好き』って聞こえたんですけれど?」
なのに、やっぱり現実は何処までも私の敵だ。何故、先ほどの告白がクラウス様に届いてしまったのだろうか。そう思いながら、私はただ俯いて「……そ、その」ということしか出来なかった。
「えっと、ジュリエット嬢。俺の勝手な思い込みかもしれませんが……ジュリエット嬢は、俺のことを好いてくれているんですか? いや、ナルシストって思われても仕方がない発言ですけれど……」
しかも、クラウス様はそう続けられた。……もう、覚悟を決めるしかない。ここは「好き」って直球に行くしかない。当たって砕けろ精神で、行くしかない。
(それに、クラウス様ほどになったら、告白されることにも慣れていらっしゃるだろうし……!)
きっと、冷静に私の告白を受け止めてくださるはず。そう思って、私は顔をバッと上げて「クラウス様が、好きです」と言おうとした。しかし、言えなかった。だって――クラウス様も、お顔が真っ赤だったから。
「……そ、その、ジュリエット嬢、俺……」
そして、クラウス様は震える声でそうおっしゃった。……なんで、なんでこんな反応を見せられるの? これじゃあ、まるで……クラウス様も私のことを好いているみたいじゃない。そんなの、ありえないのに。
「わ、私は……クラウス様のことが――恋愛感情で好きなんですっ!」
それに、そんな表情を見せられたら私の気持ちは止まらなくて。私はテーブルをバンっとたたいてそう告白した。それは、私の一世一代の告白。これで玉砕したら……仕方のないことだ。そう思えるぐらい、勇気を振り絞った告白だった。
本編のカップル(ウィリアム×アナスタシア)に甘さが微塵もなくて、恋愛詐欺っぽくなっているので、クラウスとジュリエットで補完しています(´・ω・`)




