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子爵令嬢ジュリエットの初恋(5)


 ☆★☆


「お嬢様。クラウス様からお手紙が届いておりますよ」

「えぇ、ありがとう、マリー」


 クラウス様と出逢ってから約二ヶ月程度の月日が経った頃。私とクラウス様はすっかり文通友達になっていた。一週間に一度、お手紙を出し合う。その内容は他愛のない世間話や近況などが主だけれど、私からすればそれはとても楽しくて。クラウス様はお話上手で、王宮で起きた面白いことなどを教えてくださる。そりゃあ、守秘義務があるからそこまで詳しく教えてはくださらないけれど、それでも良かった。


 それに、お父様もお母様もお兄様も。私の表情が明るくなったと言ってくださるのだ。あのパーティー以来、私は変わったと。でも、実際は変わったわけじゃない。変えられたのだ。他でもない、クラウス様に。いつしか私はクラウス様のお隣に並べるようにと自分磨きも頑張るようになった。マナーも最低限ではなく、レベルの高いものを求めるようになった。事なかれ主義を、止めた。


「今日は何が書いてあるのかしら……?」


 そうつぶやいて、私は自室に引っ込んでクラウス様からのお手紙を開ける。そして、便箋の文字を追った。内容は当たり障りのない近況のことが多い。けど……最後の一文が、ふと気になってしまった。


 ――嫌がらせとか、されていませんか?


 そんな一文が、何故かすごく気になってしまった。私は別に嫌がらせなんてされていない。……そうよ、最近少し気になることはあるけれど、大したことはない。


(それに、あれが嫌がらせというのかは分からないし……)


 あれは、正直書くかどうか躊躇ってしまうようなことなのだ。最近、私が外を出ると酷く敵意の籠った視線を向けられることがある。だけど、その視線の先を追っても誰もいないことが多い。その視線が怖くて引きこもりがちにな……った訳ではないけれど。だって、私は元から引きこもりがちだし。


「書いても、仕方がない気がするのよねぇ……」


 あれを嫌がらせと捉えれば、この世の中が嫌がらせが蔓延している。そもそも、社交界では敵意を向けられるのも当然のことだし、気のせいということにしておいた方が良いかもしれない。うん、そうよ。だから、私は「いいえ、特にありません」という一文を便箋に綴ることにした。クラウス様はお優しいから、きっと余計な心配をされているんだわ。そう、自分に言い聞かせた。そう思っていた方が、楽だから。


「今回は何を書こうかな……」


 その後、私は意識を変えてクラウス様に伝えたい近況を綴っていく。あんなことがあったという日常のことから、社交界での噂のことなど。様々なことを綴りながら、私は楽しくなってしまう。多分、初恋相手と一時期でもいいから楽しい時間を過ごしたかったのかもしれない。いいや、それがすべてだ。


「お嬢様、少し、よろしいでしょうか?」


 そんな時、ふとマリーが私の元にやってきた。……何か、先ほど伝え忘れたことでもあるのかしら? そう思って、私が「いいわよ」と言ってマリーを招き入れれば、マリーはとても神妙な面持ちで「……お嬢様にお伝えするべきか、迷ったのですが」と言いながら、俯いてしまった。


「ねぇ、マリー。どうしたの?」

「……実は、最近シャリエ子爵家に脅迫状が届いておりまして。……その、その脅迫状の内容がお嬢様に関することだったんです。……今、旦那様や奥様が必死に捜査をしていらっしゃいますが、一応お嬢様の耳にも入れた方が良いかと思いまして……」


 マリーは、震える声でそう教えてくれた。……脅迫状? それも、私のことで? ……それって、もしかしてだけれど――……。


「ねぇ、マリー。その脅迫状ってまさか……クラウス様のこと?」


 私が優しくマリーにそう問いかければ、マリーは肩をビクッと揺らして「……そうで、ございます」と教えてくれた。


「クラウス様に出逢われて、お嬢様はとても元気になられました。ですから、私たちは伝えるかどうか迷ったのです。お嬢様にクラウス様との関りを絶てなんて、言えるわけがありませんから……」

「……マリー」

「本当に、今まで黙っていて申し訳ございませんでした! お嬢様のお幸せを願えば願うほど、伝えることが出来なくて……!」


 声を震わせながら、ただひたすら「申し訳ございません!」と謝ってくるマリーに、私は何と声をかければいいか分からなかった。そして、それと同時にやっぱりクラウス様との関りを絶ちたくないと思ってしまった。……けど、脅迫されている以上関りを止めた方がいいのも分かっている。


「……ごめんなさい、少しだけ、考えるわ」


 だから、私は震える声を必死に抑えてそう言うことしか出来なかった。クラウス様と関わり続けるか、このシャリエ子爵家を守るために関わりを絶つか。


(そんなの、選べるわけがないじゃない)


 そう思ってしまって、涙がこぼれてしまった。私は、クラウス様が好き。でも、それ以上に家族が大切。家が、大切。だから――すぐに選ぶことが、出来なかった。

総合評価8500超えましたm(_ _"m)ありがとうございます! 第二部もちまちま準備中ですので、待っていただけると幸いです(n*´ω`*n)

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


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