子爵令嬢ジュリエットの初恋(3)
(……とても、綺麗なお顔)
私はクラウス様のお顔を見て、そんな感想を抱いてしまった。その吊り上がった黒色の瞳も、漆黒色の短髪も。まるで物語の中の王子様みたい。そう思ってしまい私が茫然とクラウス様を見つめていると、クラウス様は「足、相当痛いんですか?」なんておっしゃって、私の近くにしゃがみこんでくださった。
「だ、だ、だだだだ、大丈夫、です!」
だから、私は必死に首を横に振ってクラウス様に返事をした。正直、すごく痛い。でも、クラウス様に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思って、私が誤魔化すように立ち上がろうとすれば、足首に激痛が走って。何とか立ち上がれたものの、顔をしかめてしまった。
「……全然、大丈夫そうには見えませんけれど?」
「大丈夫って言ったら、大丈夫、なんですぅ……!」
クラウス様は親切心でそうおっしゃってくれている。それは、分かる。しかし、素直に「痛いです」なんて言えるわけがない。本当のこと言えば、ヒールは辛いし出来れば歩きたくないぐらい。けど、私が誤魔化すように逃げ出そうとすれば、手首をクラウス様に捕まれてしまった。……ひ、ひえぇぇぇ! 美形の男性に、触れられた……!
「クラウス! 何をしているんだ!」
そんな時、クラウス様の連れであろう男性が、こちらにやってこられた。その男性もとても見た目麗しくて、私は茫然としてしまう。……あ、このお方のことも私は一応知っているわ。ウィリアム殿下の護衛の、ヴァレリー様だわ。クラウス様から見て同僚……みたいな存在、よね?
「あぁ、ヴァレリーさん。実は、この女性が怪我しちゃったみたいで……。控室に連れて行こうかと思いまして」
「い、いえいえいえいえ、そこまでしていただくわけには……!」
クラウス様の提案に、私はまた首をブンブンと横に振って拒否する。こんな美形の男性と一緒に居たら、私ほかのご令嬢に妬まれてしまう。それに、クラウス様にも迷惑をかけてしまうわ。私なんかと噂が立ったら、困っちゃうだろうし……!
「あ、そう。じゃあ、連れて行ってやれ。俺は適当に他の奴らと飲んでるから」
「は~い」
なのに、ヴァレリー様はあっさりと納得すると、この場を立ち去って行こうとされる。しかし、最後に私の耳元に唇を寄せられて「変な奴じゃないから、安心して」とだけおっしゃった。……へ、変な奴じゃないって……! そう言うことを心配しているんじゃなくて……!
「じゃ、控室に連れて行くからね。そこでメイドか侍女に手当てしてもらおう」
「そ、その……」
「あ、歩けないぐらい痛い感じ? 俺が抱えて行ってあげようか?」
「そう言うのは……!」
何? クラウス様なんでこんな見ず知らずの愛想のない女に優しくしてくださるの……? そう思いながら私が戸惑っていると、身体がふわりと宙に浮く。……え? まさか、本当に抱っこされた!?
「お、降ろしてくださいぃぃぃぃ! 無理です! 恥ずかしいです!」
「痛いんでしょ? 悪化しないようにしなくちゃ」
クラウス様のおっしゃっていることは、ごもっとも。でも、私の心臓が持ちません! お兄様に抱えられた時とは、訳が違うんです! ……と言いますか、クラウス様細身なのに結構がっしりされているわ。やっぱり、王子様の従者って力持ちじゃないと出来ないのかな……?
「連れは、いないの?」
「きょ、今日は、私、一人、で……」
「そっか。じゃあ、俺送って行ってあげる。どうせ俺の連れ男しかいないし、放っておいても大丈夫だからさ」
ニコニコと笑われながら、クラウス様はそんなことをおっしゃる。……その笑みに、私は何故かどきどきしてしまった。……やっぱり、美形って罪だわ。そう思って私は必死に両手で顔を覆う。
「……普段は誰かと一緒に来ているの? 婚約者とか?」
「ふ、普段は、お兄様と、一緒に……。婚約者は、まだ、い、いません……!」
「そう」
なんで、そんなことを訊かれるの……? そう逆に問いかけてみたかったけれど、恐ろしくて訊くに訊けなかった。……そもそも、私人と会話をすることが苦手なの。そんなこと……言えるわけがないじゃない!
「そう言えば、名前は? 俺、クラウス・ギャロウェイ。ギャロウェイ男爵家の次男坊で、普段は王太子殿下の従者をしている」
「わ、私は……ジュリエット、と申します……」
「そっか。ジュリエット嬢ね」
クラウス様は、一瞬も笑みを絶やさずに私のたどたどしい言葉を聞いてくださった。だから、なんだか私は安心できた。今までの人は、私のたどたどしい話し方に嫌悪感を丸出しにする人ばかりだったから……。
(この人、とっても素敵な人……かもしれない)
そんなことを思っても、無駄なのに。そう思うのに、何故か心がどきどきして、もやもやとしてしまう。……もしかしてだけれど、私――
(クラウス様に、恋をしてしまったの……?)
こんなにも単純に惚れてしまうなんて。そう思うけれど、どうやら私は本当にクラウス様に好意を抱いてしまったらしい。単純で、あっという間に抱いてしまった恋心が、私を苦しめることになるなんて――きっと、薄々分かっていた。
クラウスは(黙っていれば)完璧に近い男性です(´・ω・`)
あと、ジュリエットがヴァレリーのことを様付けしているのは、彼も貴族だからです。というか、ウィリアムの専属従者や護衛、侍女はみな貴族です。




