子爵令嬢ジュリエットの初恋(1)
今回から番外編クラウスのお話です(o_ _)o))クラウスの婚約者ジュリエット視点で物語は進んでいきますので、よろしくお願いいたしますm(_ _"m)
私、ジュリエット・シャリエは人が大の苦手だ。
特に、赤の他人という部類の人が大の苦手。そもそも、人を目の前にすると頭が真っ白になって、突拍子もない答えを返してしまう。それを多数の人にからかわれて以来、私は出来る限り俯いて生活をするようになった。一人俯いて、一人で過ごす。幸いにも、本を読むことは好きだし最悪一人で修道院に行けばいい。そう、思っていた。
――彼に出逢う、その日までは――……。
☆★☆
「お嬢様! あまり、無茶はしないでくださいませ……!」
「い、行くのよ、大丈夫。今回ばかりはきっと……大丈夫!」
必死に自分にそう言い聞かせ、私は専属侍女であるマリーの手を握る。多分私の顔色は青いだろうし、手も震えている。だからだろう、マリーは「そんな顔色で行けるわけがありません!」と言って必死に止めてくる。……しかし、行かなくちゃならない。だって、私はこれでも貴族の娘なのだから。
「こ、今回のパーティーは私が参加するしかないの。お父様もお母様も、お兄様方も用事があるんだから。それに、懇意にしている以上断わるわけにはいかないんだから……!」
私は震える手をぎゅっと握り締めながら、そう言った。本日、私の実家であるシャリエ子爵家が懇意にさせていただいている伯爵家でパーティーが開かれる。そこは領地に神殿を所有し、聖女様との繋がりも密接な権力を持つ家。そんな伯爵家とシャリエ子爵家が懇意にできているのは……奇跡に近い。だから尚更……逃げられない。
「そ、それはそうですが! お嬢様が倒れられた方が困ります!」
「大丈夫よ! ……きっと、倒れないから」
私の言葉には真実味がない。だって、つい先日もパーティーの最中で倒れかけたのだから。そのパーティーではお兄様が私のエスコートをしてくださっており、お兄様が介抱してくださった。だからなんともなかったのだけれど……さすがに、一人で参加となるといろいろと怖い。
「でも、今回のパーティーは聖女候補の方もいらっしゃるらしいし……私、一目でいいから見てみたいの……」
それに、正直に言えばそちらが本音。このキストラー王国で毎年一人選ばれる聖女様。今回の聖女候補は、王太子殿下であるウィリアム殿下の婚約者の、アナスタシア・シュトラス公爵令嬢。それから、末端男爵家の令嬢であるキャンディ・シャイドル男爵令嬢。水と油ぐらい混ざり合わない候補だと言われているお二人。現状はアナスタシア様が優勢らしい。何でも、聖女の力の源となる光の魔力の量が多いとか何とか……。あ、でも今回のパーティーに招待されているのはキャンディ様の方なのよね。
「……さようでございますか。でしたら、私めはもう止めませんが、無理だと思ったら引き返してくださいませ。お嬢様が倒れられるかと、心配で心配で……」
「ありがとう、マリー。私はもう大丈夫だから。……だから、頑張ってくる!」
そう言って、私は淡いグリーンのドレスを翻してシャリエ子爵家の家紋のついた質素な馬車に乗り込む。伯爵家までは片道二十分程度。その間に、心も何とか落ち着くだろう。……こんな風にバクバクとうるさく主張をする心臓も、きっと落ち着いてくれる。
(……大丈夫。私は、大丈夫)
異国には手のひらに「人」という文字を書いて、飲み込めば落ち着くというまじないがあるそうだ。私は本でそれを知って以来、何度も何度も試している。気分だけかもしれないけれど、それで落ち着くのならばそれよりも良いことはない。
(それにしても、私はダメな娘よね……)
馬車の窓に映った私自身を見つめながら、そんなことを心の中でぼやいてしまう。臆病で、引っ込み思案で。さらに言えばコミュニケーション能力に欠けている。もう、お母様のお腹の中に置いてきてしまったのではないか、というぐらい。……自分で言っていて悲しくなるけれど、それが真実だから仕方がないの。
お母様譲りのさらさらとした金色の髪。お父様譲りの少しだけ吊り上がった形のルビー色の瞳。この容姿に群がってくる男性は、多い。しかし、私が面白いこと一つ言えないと知ると、去って行ってしまう。その際に必ず「つまらない女」という言葉を残されていく。それが……私の心に棘を残して行く。その棘はずっと抜けなくて、溜まっていくだけ。……もう、そう言われて流す涙もなくなってしまった。
(でも、私にもきっと運命の人が現れる……はず、よ!)
その人が、きっと私の心を救ってくれる。おとぎ話の読みすぎかもしれないけれど、そう思いたかった。そう、信じたかった。
そして、そんなことを考えていると馬車が伯爵邸にたどりついた。この日、私が本当に運命の出逢いをするなんて……この時の私は、考えもしていない。




