悪役令嬢は旦那様と離縁がしたい!
「だ、旦那様……?」
私の声は、いろいろと緊張しているからなのか明らかに震えていた。ウィリアム様は、私がアナスタシアではないことを知ってしまった。だって、あの時側でジェレミー様のお話を聞かれていたから。それに、ロイドみたいに言ってくれるかは分からない。もしかしたら、「お前に王太子妃は務まらない」とおっしゃって、そのまま離縁ということも――……。
(はっ、むしろ、それは私の望み……!)
離縁というのは、私の最終目標である。じゃあ、このまま放置で良いかな? うん、むしろそれでいいわよね。
「アナスタシア」
「……はぃ」
ウィリアム様に名前を呼ばれて、私は恐る恐る返事をする。ウィリアム様のお顔は、見ることが出来なかった。なんだか恐ろしかったから。私が俯いていると、ウィリアム様は「ま、いいんじゃないか?」なんて意味の分からないことをおっしゃった。
「い、いや、何が……?」
「お前の正体」
そんなことを淡々とおっしゃったウィリアム様は、私の顔を覗き込んでこられる。そのとてもかっこいいお顔が私の視界いっぱいに映って、私は今更ながらに照れてしまいそうになる。ここ最近ずっと見ていたお顔なのに、今更照れるのはきっと……ウィリアム様の意思が意外にも強いということを知ってしまったからだろう。
「お前の正体が誰であろうと、アナスタシアであることに間違いはない。だから、俺は別に何も言わない。というか、黙っておいてやる」
「……それは」
「お前が罪に問われるときは、俺も一緒に問われてやる。もちろん、ロイドも。知っていて黙っていたということになるからな」
……はぁ!? ウィリアム様のお言葉の意味を理解して、私は思わず心の中で叫んでしまった。そもそも、ウィリアム様が罪に問われたら最悪この国に王位継承問題が発生するんですけれど!? だから、一緒に罪に問われるのは勘弁願いたい。
「い、いや、そういうのは、ちょっと……。だって、旦那様がいらっしゃらなくなったら、このキストラー王国に王位継承問題が……」
「バレなければ問題はない」
「……それはつまり、私にも黙っておけと?」
「そう言うことに決まっているだろう」
あっけらかんとそうおっしゃるウィリアム様に、私は頭が痛くなりそうだった。おっしゃっていることは、つまりこの国に王継承問題を発生させないためにも、私の中身がアナスタシアではないということを隠せ、ということ。そんなの、無理に決まっているわ。いつかはバレる。
「もしも、バレたら……」
「そんなことはない。バレないように努力をすればいい」
ウィリアム様はそんなことをおっしゃると、口元をふっと緩められた。その後、「お前には感謝している」なんていきなりお礼をおっしゃった。……いや、なんで? なんでそんな風にお話がポンポンと飛ぶの?
「お前がいなかったら、俺はずっと変われなかった。現状に満足をして、領地にも目を向けなかっただろう。だから、お前に感謝する。……こんなことを言ったら不謹慎かもしれないが、アナスタシアが変わってくれて、良かった」
「……それは」
「お前は、本当に王太子妃の鑑だよ。王太子である俺を支え、この国を良くしようと力を尽くしてくれた。……そんなお前を、俺は誇りに思う。きっと、シュトラス公爵もそうだろう」
「いや、ちが……」
「そう言えば、トバイアスの街の住民たちがお前に感謝をしたいと押しかけてきているぞ。あとで相手をしてやれ。……あと、そこにクラウスがいる」
そうおっしゃったウィリアム様は、窓の外に視線を向けられる。窓の外には、確かにクラウスがいた。そして、口パクで「お幸せに」みたいなクッソくだらないことを言う。……お幸せにって、何?
「クラウス!」
だから、私はそんなことを叫んだ。私の怒りの声を聞いてか、クラウスは大笑い始めた。決して笑い声は聞こえてこない。でも、お腹を抱えて涙を流しているのでそれがわかる。……あの愉快犯男! そもそも、私の目標は離縁だって言うのに!
「……旦那様、私に、その、王太子妃は務まらないと……」
「何を言っているんだ? お前以上に最高の王太子妃はいないだろう? 王太子である俺を正しい方向に導いた。そんなお前が王太子妃の鑑ではなくて、何になる。トバイアスの街の住民たちも、そう言っていたぞ」
そんなウィリアム様のお言葉を聞いて、私は気が遠くなりそうだった。
(それってつまり、私に王太子妃を続けろって言うこと!? 私の楽々スローライフは!? 田舎に移住するつもりだったのに!)
脳内で大パニックを起こしながら、私はただ誇らしげに微笑むウィリアム様に憎々しいとばかりの視線を向けた。でも、ウィリアム様はお構いなし。……いや、ここで諦めたらダメだ。諦めずに何度も離縁に向かって突き進むしか、道はない。よし、そうと決めたら切り替えて――……。
「旦那様。私はトバイアスの街の復旧のために、もうしばらくこちらに滞在します。なので、許可を得てきてください」
「……俺が、するのか?」
「あたりまえじゃないですか。私、病み上がりの病人です」
「……そんな元気な病み上がりがいるのか? まぁ、今回は任せておけ」
ウィリアム様の呆れたような視線を、受け流す。とりあえず、復旧が終わるまで追加でここに滞在するんだから! それに……私は、離縁を諦めない。
(絶対に離縁して田舎でスローライフを送るのよ!)
その目標に向かって、突き進む。それが私――アナスタシアの生き様なのだ。
次回、第一部エピローグです(n*´ω`*n)その後はクラウスの閑話を連載し、第二部に移ります(´・ω・`)なので、引き続きよろしくお願いいたします!




