悪役令嬢、目を覚ます
☆☆
「アナスタシア!」
「……お兄様」
その後意識が浮上した時、一番に視界に入ったのはお兄様のお顔だった。お兄様は心配そうに私の顔を覗き込んでこられる。……とりあえず今、何時だろうか?
「お兄様。今、何時でしょうか?」
「今は朝の八時だ。アナスタシアは、十二時間以上眠っていたことになるな」
「……そう、ですか」
私はゆっくりと横になっていた寝台から起き上がり、お兄様のお顔をじっと見つめる。お兄様の表情は、心配そうに歪められている。でも、心配されているのは私ではなくアナスタシアのはず。そう思って、私は自分の心臓部分に手を当てた。……アナスタシアは、私の意識の奥底で眠っていると言っていた。
「街は、無事でしたか?」
それから、私は一番心配だったことを尋ねた。すると、お兄様は「……まぁ、被害は最小限だったと思うぞ」なんておっしゃる。その視線が彷徨っていたこともあり、やっぱり街は瓦礫の山になってしまったのだと思ってしまった。……私が、もっと上手くできていれば。
「アナスタシアが自分を責めることはない。アナスタシアは、最善を尽くしてくれた。それは、皆が分かっているさ」
「……ですが」
「自分を卑下するな、いいな?」
お兄様は俯いてしまう私の頭に手を当てながら、そうおっしゃった。……ねぇ、お兄様。お兄様は、私がアナスタシアではないと分かっていても、妹扱いしてくださるの? 私がそう思っていた時、お兄様はふと「ほかの奴らも呼ぶか」なんてにっこりと笑っておっしゃった。その後、ニーナを呼ぶためのベルを鳴らす。
「……アナスタシア、無事でよかった」
そして、小さく呟かれたその声はしっかりと私の耳にも届いていた。……ここで死んだら、元も子もなかったわね。シルフィアさんの言うことを聞いていて良かったと、今ならば思う。
「お待たせいたしました、マテウス様。……アナスタシア様っ!」
それからしばらくして、ニーナが部屋に入ってくる。それから、私が起き上がっているのを見ると、瞳を丸くして私にタックルをしてきた。……ねぇ、最近勢いが増していないかしら? そりゃあ、私が心配ばかりかけているのはわかっているけれど……ちょっとは手加減してくれてもいいじゃない。
「良かった、よかった……! もう、心配で、心配でぇ……!」
「……ごめんなさいね。これからは、頑張って無茶だけはしないようにするわ」
「無茶以前に大人しくしていてください!」
ニーナに涙目で睨まれてそう言われるけれど、私の心は温かくなる。その言葉は、それだけニーナが私の心配をしてくれていたということだから。そのため、私はニーナの手を握りながら「それは無理かもしれないわ」なんて小さく呟いた。すると、ニーナは頬をぷくぅと膨らませる。……すごく、可愛らしいわね。
「ニーナ。とりあえず、俺はほかの奴らを順次呼んでくるから、アナスタシアの話し相手をしてやってくれ」
「はい、マテウス様」
お兄様はそうおっしゃると、ニーナを残して部屋を出て行かれた。その後、私と二人きりになったニーナはポロポロと露骨に涙をこぼし始める。……本当に、心配ばかりかけたわねぇ。っていうか、ニーナこんなにも泣き虫だったかしら?
「あな、すたしあ、さまぁ!」
「……はいはい、ニーナは泣き虫ね」
「アナスタシア様が心配ばかりかけるからぁ!」
……その言葉には、何も言えない。そう思って苦笑を浮かべていると、部屋の扉が数回ノックされてゆっくりと開く。そして、現れたのはシルフィアさんだった。
「アナスタシア様~。目が覚めたんですねぇ~!」
シルフィアさんはいつものようにのんびりとした口調でそんなことを言う。そのほんわかとした雰囲気に少しだけ癒されて、「はい、ご心配をおかけしました」と私は最近言ってばかりの言葉を紡ぐ。すると、シルフィアさんは「本当に~」と言いながら、私の方に近づいて私の茶色の髪を撫でてくれた。
「アナスタシア様。たまにはお姉さんに甘えてくださいな」
「……シルフィアさん、私と大して年齢変わらないですよね?」
「これでも二十歳です~。二歳も年上ですよ?」
そう言って、シルフィアさんはクスクスと楽しそうに笑う。その笑い声につられてしまいそうになるけれど、そう言えば一つだけ訂正しなくちゃいけないことがあったのだと思い出した。
「シルフィアさん。私、別に使命感とか責任感とかないですからね? 領地を発展させたいって思ったのも、自分勝手な理由からですし……」
そうよ。シルフィアさんは私のことを「責任感や使命感が強い」なんて勘違いしている。だから、それだけは訂正しなくちゃ。そう思ってそう言うのに、シルフィアさんは「そんなの関係ありませんよ~」なんて言う。
「使命感も責任感も、持っているだけじゃダメなんですよ。きちんと行動してこそなんですから! そう考えたら、アナスタシア様は立派です!」
「だから、そうじゃなくてぇ……」
あぁ、なんだかいろいろと勘違いが酷くなっている気がするわ。そもそも、私はアナスタシアのハイスペックさを見せつけるために行動しているだけであって、決して使命感なんてありませんからね? 何度も言うようですけれど。
「領地を発展させたいって言うのも、下心満載だったのに!」
もう、辛い。だから、私はそう叫んでしまう。このまま勘違いされたままだったら、いろいろと辛い。そう、思ってしまっての行動だった。なのに、シルフィアさんは「そんな謙遜しなくても~」なんて的外れな回答をしてくる。やめて、もうダメ。私、いろいろと疲れたわ!
「アナスタシア様」
そんな時、次に現れたのはマックスさんだった。マックスさんはにっこりと笑いながら、「無事でよかったです」なんて言ってくれる。……なんだか、シルフィアさんとの話が中途半端に終わってしまったわね。
公式サイトにカバーイラスト出ました(n*´ω`*n)とても美しいイラストは紫藤むらさき先生に描いていただいたものです。後々下にリンクも貼ろうと思っておりますm(_ _"m)(現在格闘中です)




