悪役令嬢と戦場
今思えば、ジェレミー様はずっとアナスタシアのことを「好いていた」。そして、あの時に聞いた声は何処かジェレミー様に似ていた。すぐに思い出せなかったのは、きっと私の記憶がこんがらがっていたことがあるからだろう。それに、毒を盛られて以降私はジェレミー様にお会いしていない。それもきっと、関係している。
「……そう言えば、ジェレミー様はずっとアナスタシア様に恋慕を抱いていましたよね……」
「そうね。私も今の今まで分からなかったわ。けど、ジェレミー様の行動は全て私を好いていた故の行動だったわ」
ジェレミー様はアナスタシア懐いていた。プレゼントだってくれたし、まぶしいばかりの笑みを浮かべていた。そして、アナスタシアがウィリアム様のことで心を痛めていると、必ずと言っていいほど現れた。さらには、まるで「自分を選ぶように」と洗脳しているような感じもあった。それは、失敗したようなのだけれど。
「ジェレミー様は、お人好しの仮面をかぶった狂気の人物よ」
だから、私はロイドにそう告げる。ウィリアム様がおっしゃっていた「アイツ」というお言葉は、ジェレミー様を表している。……確かに、ジェレミー様は慎重な性格だ。ウィリアム様がいつジェレミー様が黒幕だと気が付かれたのかは分からないけれど、私に教えてくださらなかったのはアナスタシアがジェレミー様のことを可愛がっていたからだろう。変に傷つけないように、と配慮をしてくださったのだ。……まぁ、いずれは分かるのだからその配慮は無駄だったのだろうけれど。
「……でも、とりあえずは今はジェレミー様のことよりもトバイアスの街の方が重要よ」
「はい」
私はロイドにそう声をかけて、ゆっくりと笑いかけた。トバイアスの街を守ってから、ジェレミー様のことを考えましょう。それがきっと、一番だから。
トバイアスの街にたどり着くと、そこは瓦礫の山と化していた。綺麗だったレンガ色の街並みは、まるで特撮映画かなにかで敵の怪獣が暴れたときのような光景になっている。……許せないや。そう思っていると、先にたどり着いていたのであろうシルフィアさんが、私とロイドの方に駆け寄ってきてくれる。
「シルフィアさん。住民の方々は……?」
「孤児院のシスターたちが、避難させてくれていました。怪我人は今のところ数名。全員軽傷です」
「……そう。それでも軽傷者がいるのね」
「はい、でもかすり傷などで済んでいるのは幸いかと」
シルフィアさんのその報告を聞いて、私は敵兵が暴れているという方にゆっくりと歩を進める。ちなみに、私の側にはロイドがぴっちりとくっついている。……ちょっと過保護かなぁって思うけれど、この時ばかりはありがたい。
「シルフィアさん。お兄様方は?」
「シュトラス公爵は、先に敵兵の相手をしてくださっています。師匠と王太子殿下も一緒です」
「そう、状況はどう?」
「悪いですね。そもそも、闇の魔力が関わっていると、聖女の力がないとやりにくいですから」
やっぱり、そう言うことになっちゃうわよね。けど、私もそう言うのは覚悟の上。それに、こうなることもあるかと思って魔力を送る練習もしておいたのだ。だから、私はこの間よりもスムーズにロイドとシルフィアさんに光の魔力を送る。……ここは、辺境の方だ。他の聖女を派遣してもらうとなると、かなりの時間がかかってしまう。……そんな時間、もったいないわ。
「私、キャンディ様のところに行くわ。シルフィアさんとロイドはお兄様方を助けに行って」
「アナスタシア様、無理です。アナスタシア様に何かがあっては、遅いので……」
ロイドがそう言って私の腕を掴んで渋る。だから、私は静かに首を横に振った。この際、私の命がどうなろうと知ったことじゃない。そもそも、どうなっていたか分からない命なのだ。……だから、この命を有効活用したって良いでしょう?
「必要ないわ。私一人で、やる」
「アナスタシア様!」
私とロイドがそんな風に言い争いをしていると、シルフィアさんが静かに口をはさんでくる。その表情は、いつもと違ってとても真剣だった。
「アナスタシア様、ロイドさんを連れて行ってください。それから、王太子殿下も。良いですか? ここは戦場に近いんです。命なんて軽いものなんです。……一度死にかけたとかそう言うことは関係ありません。正常の先輩の言うこと、分かりましたね?」
「……」
シルフィアさんにそう凄まれて、私はただ頷くことしか出来なかった。……シルフィアさんの言うことには、一理どころか全部だ。だけど、私はお荷物になりたくなかった。キャンディ様やジェレミー様の狙いが私である以上、私一人が犠牲になれば全てが丸く終わると、思っていた部分があるのかもしれない。
「アナスタシア様は、立派な人です。でも、その責任感はもっと別のところで発揮してください」
「……ちょっと待って。私は自分勝手に行動しているだけなんだけれど!?」
ちょっと待って! シルフィアさん、絶対に勘違いしているわ! そう思って訂正しようとしたけれど、シルフィアさんはそのまま走り去っていってしまう。その代わりに、ウィリアム様がこちらに駆けて来てくださった。
「アナスタシア、ロイド。あの女はあっちの方にいる。……行くぞ」
「……はい」
と、とりあえず……全部が終わったら、きっちりと修正するということで良いわよね? そう思って、私はウィリアム様とロイドと共にキャンディ様の元へと向かうのだった。
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また、現在作者の方が体調不良にて更新速度が乱れています。出来る限り更新しますが、出来ないときはすみません……。




