悪役令嬢と心配性のラスボスと
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「うぅ……」
「アナスタシア様!」
次に目を覚ますと、見慣れない質素な天井が一番に視界に入り、すぐにロイドの顔が視界を覆った。ロイドはとても心配そうに顔を歪めており、その綺麗な顔が台無しだと思ってしまう。……いや、綺麗な顔はどんな表情をしていても綺麗だけれどね? でもさ、ほら、いろいろとね?
「ロイド、涙ぐらい拭いなさい。あと、ここは何処?」
「は、はい。ここは教会の一室です。そろそろ一度帰ろうかと思った時に、アナスタシア様が目覚めました」
「そう。……ありがとう、心配をかけたわね」
私はそう言って涙を拭うロイドを見つめる。ロイドって、本当にアナスタシアが好きね。好きすぎて、ラスボスになっちゃうんだから相当なものよ。……でも、ロイドに話せない秘密を私は持っている。ロイドとニーナには、絶対に話せない秘密が。それに胸を痛ませていると、ロイドは少しだけ明るい表情に戻って「少し、調理場を借りてスイーツを作ってみたんです。軽くですが、どうですか?」と言ってくれた。だから、私は「えぇ、食べるわ」とだけ答えた。
「そう言えば、シルフィアさんは?」
作ったというスイーツを準備してくれているロイドの背にそう声をかければ、ロイドは「魔法陣の残骸を片付けていらっしゃいますよ」と当然のように教えてくれる。……そう言えば、魔法陣って残骸が出るんだっけ。特に闇の魔力が関わっていると、空気に淀みが残るとかなんとか。私にも片づけが出来たらいいのだけれど、生憎そっちの知識はないからここはプロに頼むしかなさそうだ。
「どうぞ、アナスタシア様」
そんなことを私が思っていると、ロイドが目の前に紙皿に載ったパイを差し出してくれる。……がっつりいけということ? そう思いながらフォークと紙皿を受け取って、私はそのパイにフォークを入れる。……これ、アップルパイじゃない。
「ロイド、これ……」
「はい、アナスタシア様から頂いたレシピを勝手にアレンジしてみました。あっさりとした味わいにしてみたので、病み上がりでも食べられると思いますよ」
ロイドは笑顔でそう教えてくれる。だから、私はそのアップルパイを一口大に切って口に入れてみた。……確かに、普通のアップルパイよりもさっぱりとしている。これは、どういうことなのだろうか?
「形が悪くて出荷できないものがあると聞いたので、ダフィールド果樹園のオーナーさんに形の悪い高級りんごを格安で譲ってもらったんです。……そのりんごはあっさりとしているので、こういう味わいになりました」
そんなロイドの説明を聞いて、私はハッとする。そうよ、高級りんごでもアップルパイを作ればいいのよ。形が悪いものだったら、格安で買い取れるんだから。それを限定品として販売すれば、儲かるかもしれないわ。さ、さっそくノートにまとめないと……!
「アナスタシア様!」
私が慌てて鞄を漁りだすと、ロイドがその行動を咎めてくる。だから、何だろうかと思ってロイドの方に視線を移せば「そこまでして、お仕事がしたいですか?」と問いかけてきた。……そこまでしてって、意味が分からないわ。
「アナスタシア様は、病み上がりです。なので、本日はお仕事厳禁です。俺が、代わりにまとめておきますので」
「……ロイド」
「アナスタシア様は変わられました。いい意味でも、悪い意味でも。その悪い意味の一つが、周りが見えなくなることです。……アナスタシア様、もっと周りを頼りましょう?」
ロイドはそう言って、私の口に一口大に切り分けたアップルパイを突っ込んでくる。いや、これ不敬! って思ったけれど、美味しいので何も言わない。もぐもぐと咀嚼して、飲み込んでロイドを見つめれば、ロイドは輝かんばかりの美しい微笑みを浮かべていた。……ヤバイ、顔が滅茶苦茶好み。
「周りに、頼っているわ。お兄様にもマックスさんにも、シルフィアさんにも迷惑をかけっぱなしだもの」
「……そこに、王太子殿下は入らないのですね」
「だって、私別に旦那様に迷惑をかけた記憶がないわ」
ツンとしてそう言えば、ロイドは「……まぁ、それもそうですね」なんて同意してくれた。ウィリアム様には逆に迷惑をかけられていると思う。子供は苦手だし、キャンディ様は苦手だし。すぐに逃げようとするし。……これから心の中でポンコツ王太子って呼んでやる。まぁ、顔だけはとても素晴らしいのだけれど。
「ですが、俺とニーナもアナスタシア様に迷惑をかけてほしいんです。貴女は、大切なたった一人の主ですから」
そう言ったロイドは、私の手を取ってくれる。……ロイド、そこまで思ってくれていたんだ。そう思うと、胸が温かくなった。ニーナもきっと、ロイドと同じ気持ちなのよね。
「……と言いますか、アナスタシア様に何かがあったら俺の気が狂う以外にも、マテウス様が暴れだしそうな気がするんですよ……」
けど、最後のロイドの言葉には、同意せざるほかなかった。お兄様、怖いものね。そう思って、私は遠くを見つめてしまう。……恐ろしや、恐ろしや、魔王様。
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