悪役令嬢と情報通
「さてさて、まずは何からお話しましょうかねぇ」
「……まずは、じゃなくてしっかりと重要なことを教えて頂戴。それ以外は、後でいいわ」
私はクラウスを見据えながら、そう言った。クラウスのその鋭い眼光が、私を射抜き息をのんでしまう。しかし、クラウスはそんな私を見てただ笑う。
「では、まず。……キャンディ・シャイドルは今、ここら辺にいますよ」
「……ここら辺ってだけじゃ、分からないわ」
「ここら辺はここら辺ですよ。ここの近くに隠れ家を持ち、潜んでいます」
……まあ、脱獄者だから堂々と行動は出来ないわよねぇ。特に、聖女選定の儀は民たちに顔を出すため、キャンディ様の顔は全民に割れている。だから、堂々とは普通ならば歩けないはず。……いや、でもあの時は堂々と歩いていたわね。魔法でも使っていたのかしら?
「しかし、何故クラウスはそんなことを知っているの?」
「簡単ですよ。俺、そこら中に情報ネットワークを築いているので。そこら辺の情報屋から安価で情報を買い取って、高価で売りつけているんですよ」
それは、世に言う転売では? そう思ったけれど、私は口を閉じた。転売はあんまり褒めらたことではないけれど、この世界でその概念があるのかは分からないし、そもそも情報屋って多分そうやって発展していくのだろうから。
「じゃあ、次ですね。キャンディ・シャイドルの脱獄を手引きしたのは、この国の宰相であるデイミアン・エースということになっているそうです」
「……そう、やはり」
デイミアン・エース。彼はこのキストラー王国を裏で牛耳っている宰相だ。様々なきな臭いうわさをすべてお金でもみ消しているとかなんとか。王家が極度のお人好しで、人を疑うことをしないことを利用しているのだ。
「ですが、これは証拠がないので捕らえるのは無理だと思いますよ。あと……これは、内密な情報なのですが」
「オプション料金を出せってことね。情報によるわ」
「さすがはアナスタシア様。王太子殿下とは違いますね。じゃあ、とっておきの情報を渡しましょう。……キャンディ・シャイドルの背後には王家の人間がいますよ」
「どういうことよ、私たちは違うわ」
「そんな睨みつけないでくださいな。分かっていますよ、アナスタシア様じゃないって。あと、別に王家全体がキャンディ・シャイドルの味方っていうわけでもないですし」
けらけらと笑うクラウスが、なんだか気に入らなかった。クラウスは、いつだって明るくてマイペースだ。なのに、人の心に入り込む術は身に付けている。だから、尚更気に入らない。アナスタシアも、前世の私も人付き合いは本当に苦手だったから。……こういう人間を見ると、あまりいい気持にはなれない。
「それから、第二王子殿下のジェレミー・ベル・キストラー様がいろいろと企んでいるみたいなので、気にしておいた方が良いかもしれませんよ。……手遅れになってからでは、遅いですからね」
「それ、普通に聞いたら不敬罪で問われそうな内容ね」
「でしょうね。でも、俺がそう簡単に捕まるなんてこと思わないことですね。俺は、狡賢い人間なので」
そう言ったクラウスが、漆黒色の前髪をかきあげる。……クラウスも、とても容姿が整っている。さすがは攻略対象の一人。……ま、私的にはお兄様やロイドの方が美形だと思うのだけれど。クラウスは好みに当てはまらないということだ。
「では、これぐらいでいいですか? 俺、この後また別の用事があるので。残りの情報は王太子殿下を通して渡しますよ」
「……はぁ、分かったわよ。私なりにも調べてみるわ」
「えぇ、それがいいですよ。ただ――キャンディ・シャイドルはきっとすぐに行動に移しますので。じゃ」
私の返答も聞かずに、クラウスはそのまま出て行ってしまった。しかも、最後になんだか不穏な言葉を残して。……はぁ、オプション料金は後で渡すか。さすがに渡さないのも可哀想だし。
(キャンディ様が何かを起こすとすれば……私の暗殺、とかかしら?)
そう思いながら、私はクラウスが出ていった扉を見据える。あの日以来、キャンディ様は映像ですら私に接触していない。もしもそれが嵐の前の静けさなのだとすれば……ちょっと、怖いかもしれない。
「まぁ、いいわ。……返り討ちにしてあげるもの」
私はそうつぶやいて、部屋に置いてあるベルを鳴らす。これは、ニーナを呼ぶためのベルなのだ。クラウスが帰ったから、ニーナにお茶でも淹れてもらおう。そう、思ったのだ。
「悪役令嬢の本気、見せてあげるわ」
唇を軽く歪めながら、私は窓の外を見据える。窓の外では、小鳥が飛び立っていた。私をタダの悪役令嬢だなんて、思わないことね。だって私は――ハイスペックな悪役令嬢なんだもの、ね――?
いろいろ考えてタイトル変更してみました(n*´ω`*n)




