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悪役令嬢の欲しいもの


☆☆


「アナスタシア様、どうぞ」

「えぇ、ありがとう」


 着替えを終え、王宮にある食堂に向かうとそこにはまだ誰もいなかった。とはいっても、本日は私とウィリアム様しかここを使う人はいないのだけれど。国王陛下と王妃様は他国に視察に出向いているし、ウィリアム様の弟である第二王子殿下もその視察に同行されている。簡単に言えば、今この国にいる王族は私とウィリアム様だけなのだ。


「アナスタシア様。ウィリアム様をお待ちの間、ジュースなどでもいかがですか?」

「えぇ、いただくわ」


 侍女の提案を私は受け入れる。すると、その侍女は私の近くにあったワイングラスにジュースを注いでくれた。これは前世で言うオレンジジュースね。口の中に入れれば、オレンジ独特の味がした。うん、美味しいわ。前世からオレンジジュースは好きだったのよ。


 それから十分後。私が入ってきた扉とは逆の扉が開き、一人の男性が姿を現した。真っ赤な髪と、真っ赤な瞳。眼光は鋭く、機嫌があまりよくないことはすぐにわかった。ウィリアム様は女性に現を抜かすようなタイプではないし、アナスタシアのことも「政略結婚の相手」としか見ていない。そんな私が毒を盛られたことにより、ご自身の仕事にも影響が出ているのだろう。そりゃあ、不機嫌にもなるはずだわ。


「……アナスタシア。もう体調は大丈夫なのか?」


 ゆっくりと、ウィリアム様は私の瞳を見つめながらそんなことをおっしゃった。その鋭い眼光は刺すようなオーラを醸し出している。まぁ、良いのだけれど。これぐらいで負けるような虚弱なメンタルはしていないし、アナスタシアもそうだったはずだ。


「はい、おかげさまでもう回復しましたわ。侍女たちが甲斐甲斐しく看病をしてくれましたの」

「……そうか」


 その言葉は裏を返せば、「貴方は何もしていませんけれどね」という意味がこもっている。それに気が付かれたのか、ウィリアム様は一瞬だけ眉を顰められる。元々のアナスタシアはウィリアム様に対してはこういうことを言うタイプではなかったし、驚いてもおかしくないのかも。アナスタシアはウィリアム様の前限定でかなり大人しい性格だったようだから。


(ま、中身が私になった以上そんなことはしないのだけれど)


 わざわざウィリアム様の機嫌を取るなんて面倒なこと、私がするわけないじゃない。私は私の道を行くのだ。この際アナスタシアに毒を盛った犯人はどうでもいいわ。むしろ、感謝をしたいぐらい。前世を思い出すきっかけをくれたのだもの。


「そう言えば、最近アナスタシアは図書館に通い詰めているらしいな。司書から聞いた」


 お食事が運ばれている最中、ふとウィリアム様がそんなことをおっしゃる。司書とは、マックスさんのことね。王宮の図書館に司書は一人しかいないし、そうとしか考えられないわ。


「はい、知識の裏付けを行っておりました。もしかしたら、毒で知識がこんがらがっているかもと思いまして。それに、聖女についても調べておりましたのよ」


 私がそう言えば、ウィリアム様の表情が露骨に歪む。大方、ヒロインのことでも思い出したのかもしれないわ。ヒロインはウィリアム様に付きまとっていたし、嫌われていることに気づきもしなかった。運が悪いことにも気が付かなかったのだと思う。あぁ言うのをお馬鹿さんというのかもしれないわ。……私が言ったら勝者の嫌味にしか聞こえないかもしれないけれど。最終的に彼女は幽閉エンドを迎えたとはいえ、あの執着心だと脱走ぐらい図ってもおかしくないわ。


「旦那様?」

「い、いや、何でもない。嫌なことを一つ思い出しただけだ」


 ウィリアム様は額を軽く押さえながら、そんなことをおっしゃる。うん、やっぱりヒロインのことね。私と聖女の座を争った天真爛漫な女の子。実際は天真爛漫とは程遠かったけれど。よくある転生者かもしれないわ。


「……ところで、旦那様。お話は変わりますが、私旦那様に一つのお願いがありますの」

「……なんだ」


 とりあえず、お話を変えましょうか。そう思った私は、ウィリアム様にそう言った。私のその言葉を聞いたウィリアム様はただでさえ鋭い眼光をさらに鋭くされていた。……余計に不機嫌になったってところかしら。きっと、私が贅沢品を望むとかそう言うことを思っているのでしょうね。実際、アナスタシアは浪費癖の激しい令嬢でもあったから。


「私、やりたいことがありますの。それに、協力してほしいのですわ」

「……やりたいこと、だと?」

「えぇ」


 お食事が全て並べられたころ、私はそう言ってウィリアム様に微笑みかけた。印象は良い方が決まっているわ。そう言う意味で、私は微笑みかけたのだけれどウィリアム様は露骨に視線を逸らされる。あら、何かおかしなことでもあったかしらねぇ? あ、もしかしてもうすでに手遅れって感じ?


「私、領地経営に興味がありますの。ですので……王家が持つ一部の土地の権限を下さい」

「……は?」

「ですから、王家が持っている一部の土地の権限を下さいな」


 私はただにっこりと笑ってウィリアム様にそう言った。これは、アナスタシアの力を示すために必要なことなのだなんとしてでも……土地の権限を貰わなくては。私は、そう言う意味を込めて微笑んでいた。

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。(゜∇^d)!!続きが気になります( ´∀`)
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