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悪役令嬢と王太子の苦手なもの?


☆☆


「ここですね、孤児院」


 私はそう言って教会の隣にある建物を見つめる。質素で、ボロボロの場所。でも、よくよく耳をすませば子供たちの元気な声が聞こえてくる。ふと、ウィリアム様に視線を向ければどこかお顔が強張っているように見えた。……気のせい、よね。


「行きましょうか、旦那様」

「……あぁ」


 私の声に、少しだけ遅れてウィリアム様が返事をしてくださる。正直、ウィリアム様の変化など今の私にはどうでもよかった。だから、私は孤児院に何の躊躇いもなく足を踏み入れた。後ろからはシルフィアさんとマックスさんが着いてきてくれている。それに、ウィリアム様がかなり躊躇っていたことなど、私が知る由もなかった。


「よくぞいらっしゃってくださいました、王太子様、王太子妃様、お連れ様」

「いえ、お構いなく。私がアナスタシア・ベル・キストラーですわ」

「……ウィリアム・ベル・キストラーだ」


 シスターに挨拶をして、中に通してもらう。元より来るという報告はしていたため、私たちを迎える準備は出来ていたらしい。そんなことを脳内で整理し、私は殺風景な孤児院を見渡していた。……ふむ、ここで面倒を見ている孤児の数は大方二十人らしい。……多いのか少ないのかはよく分からないけれど、この建物だと狭くないだろうか? そこが一番の不安だった。


「シスター。この建物では、狭くありませんか?」

「……えぇ、少し。ですが、我が教会にはお金がありませんので……」


 シスターがそう言って眉を下げる。……やはり、お金がないのかこの地域は。王家からの寄付も期待できないとなると、貧乏まっしぐらになるのもわかる。……というか、王家に寄付などする余裕がないというのが正しいか。王家らしい生活を維持するのに精いっぱいというか。


「……寄付を呼び掛けてみるのは?」

「そちらも考えたのですが、どうにも……。この辺りはあまり裕福ではないですし、街に出るのも、少し……」


 そうよね。貧困はこの街というかこの地域全体の問題なのだ。自分たちがお金に余裕がないのに、人にお金を与えようという思考回路にはならないだろう。そもそも、この街を出て寄付を呼び掛けるという手段もあるけれど、人手不足だしそこまで回らないわよね。


(お兄様、連れてくればよかった……)


 そう思っても、遅い。お兄様はお仕事なのだから、無茶ぶりも出来ないし。とりあえず、孤児たちが手に職をつける分の軍資金は私のポケットマネーから出しておくか。……幸いにも、公爵令嬢時代にもらっていたお金がまだ少し手元にあるのだ。普通の平民からすればかなりの金額だろうけれど。


「とりあえず、私の方でこちらの孤児院に寄付するお金を用意しますわ」

「……本当、ですか?」

「えぇ、もちろん。幸いにもほんの少し蓄えはあるので」


 正直、この資金は離縁後の生活のために置いておこうと思っていたのだけれど。こんな現状を見せられたらどうにもならないわ~。そう思って、私は冷や汗が出そうなのを隠してシスターに微笑みかけた。すると、シスターは「ありがとうございます、ありがとうございます!」と繰り返してくれる。……うぅ、感謝されるといろいろとやりにくいなぁ。


「そう言えば、子供たちは?」

「あぁ、あちらの部屋におりますよ。お客様がいらっしゃる際には、基本的に一つの部屋に集まってもらっているんです。そちらで他のシスターに勉強を見てもらったりしていますわ」

「そうなのですね。少し、見学しても?」

「えぇ、もちろん」


 シスターとそう話していると、ふとウィリアム様が何もお言葉を発していないことに気が付く。だから、私はウィリアム様に視線を向ける。すると、少しだけ気まずそうな表情をされていた。……まさか、だけれど。


「旦那様、まさか子供が苦手なんてことは……?」


 ウィリアム様にだけ聞こえる音量で、私はそう問いかける。すると、ウィリアム様は露骨に視線を逸らされて「……悪いか」とこぼされた。うん、やっぱり。王家の方々ってあんまり子供と関わる機会もないですし、苦手になっても仕方がないと思う。でも、弟、いらっしゃいましたよね?


「ジェレミー様がいらっしゃるのに……」

「あれはあれだ。あれほど可愛げのない子供はいなかった」


 そうおっしゃって、ウィリアム様はさらに視線を逸らされる。……どうやら、ジェレミー様との関係はあまり深く触れられたくないご様子。でも、一緒にお出掛けしているのだからそこまで仲が悪いとは思えないのだけれど……? まぁ、王族貴族って家督争いがあるからあまり仲良くできない事情もあるのだろうけれど。


「旦那様、その、大丈夫です。きっと、大丈夫、です」

「その『きっと』が怖いんだ。……確証がないじゃないか」

「まぁ、なるようになれ、ですわ!」


 私がそう言って微笑めば、ウィリアム様は「クソっ」と小さく声を発せられた。子供が苦手なんて、少し可愛らしいところもあるのねぇ。そう思いながら、私は怪訝そうな表情を浮かべるシスターに「何でもありませんわ」とだけ言っておく。そう、何でもないのだ。ウィリアム様の弱点をお兄様以外のことで見つけた、なんて意地の悪いこと思っておりませんわよ?


「では、こちらでございます」


 そう言ったシスターに連れられて、私は子供たちが集まるという部屋に入る。そこでは、たくさんの子供たちが数人のシスターに勉強を教わっていた。

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