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悪役令嬢は領地の街を観察する


☆☆


「ここがこの領地で一番の街、トバイアスだ」


 お兄様がそうおっしゃるとほぼ同時に、私は街の景色に目を奪われた。レンガで出来た街並みは、とても美しい。この世界ではこういう街が多々あるらしいのだけれど、前世では見たことがなかったから新鮮に感じてしまう。そんなことを思いながら、私は街を観察する。


 まず一番に気が付いたのは、外を歩いている人の少なさだろうか。ここら辺で一番大きな街ということは、それだけ人が集まるはず。でも、人は何処かまばらに見える。


「お兄様、ここら辺の街は、やはり……」

「あぁ、そうだな。大方アナスタシアの想像している通りだ。若い人手が他所に流れていくからな、街にいるのは老人と幼児ばかりらしい。ま、両極端だ」


 そうおっしゃったお兄様は、街を茫然と見つめられる。うーん、ということはやはり十五歳ぐらいになると街を出ていくのが普通なのか。この国では十五歳が成人年齢だし、そう言う風に捉えて問題ないと思う。しかし、ご老人と幼い子供ばかりだといろいろとやりにくいだろうなぁ。


「とりあえずは、俺の人脈を使ってある程度はこちらに人をよこさないとやりづらいだろうな。だが、俺の人脈も万能ではないから、一時的なものにしかならない」

「……いえ、万能を通り越してチートの域に突っ込んでいますよ……」


 なんで、そんな素晴らしい人脈があるんだ。そう思えるレベルで、お兄様の人脈は万能だった。でも、お兄様のおっしゃることもごもっともなのよね。結局お兄様のやることは前世で言う派遣だから、根付いた人を作らないと街は発展できない。じゃないと技術も向上しないだろうし。


「さて、アナスタシア。どうする?」

「そう、ですね……。スイーツづくりに関しては、ご老人でも大丈夫ですし、幼い子と言っても十歳を超えていれば大丈夫だと思います。出来れば、十歳前後の子の方が良いですが……」


 技術の向上を狙うのならば、若いうちに仕込んでおくに限る。初めは私のレシピ通りに作ってもらって、ある程度慣れたらオリジナリティを加えてもらえばいいのだ。私のレシピに特許はないので、どうぞ好きに改造してもらって構わないし。


「だったら、孤児院にでも行ってみるか。そこは十五歳までは面倒を見るらしいからな。手に職をつけて自立する助けにもなるだろう。ま、そこらへんは後々考えるか。まずは、街を見て回るぞ。それからだ」

「はい」


 私はお兄様のお言葉にそう返事を返して、視線を馬車の中に戻す。目の前では、眠っているマックスさんの髪の毛を弄っているシルフィアさんがいる。その表情は、明るい。何かぶつぶつと言っているけれど、その言葉の意味は分からない。多分、この国の言葉じゃないわ。


(できれば、シルフィアさんとマックスさんをくっつける手伝いもしたいのよね……。いや、人の恋路に首を突っ込んだら馬に蹴られるだろうけれど……)


 でも、手助けをするぐらいはいいじゃない。そう思って、私はシルフィアさんの表情を窺う。大人っぽくて、頼りになるシルフィアさん。だけど、マックスさんの前ではどこか子供っぽくて恋する乙女になる。可愛らしいわ。恋する乙女って、やっぱり輝いている。


「……アナスタシア。今、何か変なことを考えなかったか?」

「いえ、何でもありませんよ。お兄様もいずれ結婚するのかぁと思っただけです」

「なんだそれは。……まぁ、いずれは結婚すると思うぞ。まぁ、今は無理だがな。なんといっても、王家のサポートをしなくてはいけないし、妹が可愛らしいから結婚なんて考えられないさ」

「……シスコン」


 涼しいお顔でそんな恥ずかしいことをおっしゃるお兄様に、私は真っ赤になってしまう。うぅ、ウィリアム様よりもずっとお兄様の方が素晴らしい男性じゃない。お兄様の妻になる女性が羨ましい。……って、こういうことを思うからブラコンって言われるのよね。


「それに、お前と王太子殿下のことも心配だしな。……お前たち、あまり仲良くやっていないようだから」

「……それは」

「あぁ、いろいろ要因があるのは知っているし、その要因の一つが俺であることも理解している。だがな、お前たちには上手く行ってほしいと思っているんだよ。複雑なことに」


 そうおっしゃるお兄様に、私は「嘘つき」なんて言葉を投げかけてしまう。上手く行ってほしいなんて、微塵も思っていないくせに。まぁ、私はそれでもいいのだけれど。だって、私は王太子妃なんて務めたくないという気持ちがある。出来れば円満に離縁して、スローライフを送るのよ。


「ははっ、そう思われていたとは心外だな。……可愛い妹の結婚生活が上手く行ってほしいと思うのは当然だろう?」

「……私は」

「あぁ、言わなくてもいい。何を考えているのかは大体見当がつく。……アナスタシア、お前は幸せになってくれよ。俺の唯一の身内なんだから。これからは、王太子殿下との仲も取り持ってやるか」

「余計なお世話です」


 お兄様が仲を取り持つなんてことをされたら、離縁から遠ざかるじゃない! そう言う気持ちはあったけれど、言葉にはならなかった。いや、出来なかったといった方が正しいのかもしれない。私の胸の中に眠るアナスタシアの意識であろうもの。それが、その言葉を形にすることを拒んだような気がしたから。

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


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