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悪役令嬢と果樹園のオーナー


☆☆


「え、えっと……王太子妃様、初めまして。私がこのダフィールド果樹園のオーナのデニスです……」

「ご丁寧にどうも。アナスタシア・ベル・キストラーと申しますわ。こちらは私の兄ですの。今回はご指導いただくために同行していただきましたの」

「マテウス・シュトラスと申します」


 お兄様が綺麗な一礼を披露すると、デニスさんは冷や汗が零れそうになっていた。そりゃそうだろう。ここは王家の領地とはいえ、あまり王家が介入していない土地なのだ。というか、費用がないのだ。だから、絶賛ほぼ放置中。最低限の支援はするものの、好んで介入はしてこなかった。


「お、王太子殿下は……」

「あぁ、旦那様は別の書類仕事をされていますわ。旦那様は王太子ですから、いろいろとお忙しいのです」


 私はそう言ってウィリアム様のことは誤魔化した。うん、今の段階では夫婦仲が悪いという噂が流れてもらっては困るのだ。ある程度円満な関係が築けていると思ってもらわないと困る。王宮の内部の人々は無理だとしても、こういう外の人には確かめる術がないから。


「そうでございますか……。で、ではどうぞ、汚い小屋ですが……」


 そう言ってデニスさんは私とお兄様、マックスさんとシルフィアさんを果樹園の端に建つシンプルな小屋に案内してくれた。小屋の中は外見よりもかなり広々としていて、シンプルな内装だった。少しだけ前世の私の私室を思い出してしまい、居心地がよくなってしまったのはナイショだ。


「そ、それで王太子妃様がこちらにいらっしゃったのは、この土地のお話でしたよね……?」

「えぇ、大体のことをまとめたお手紙をお送りしましたよね?」

「はい、受け取って目を通しております。ただ……正直、あまりこの土地は良いとは言えないんですよ」

「と言いますと?」


 デニスさんはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。そして、ポツリポツリとお話をしてくださった。ここら辺はまず世に言う過疎地域に入るという。近隣の大きな街の方に人々が移住してしまい、ここら辺にはご老人が多いとか何とか。デニスさんは四十代半ばだけれど、これでも若い方らしい。……ふむふむ、前世の田舎を思い出すわね。あ、ここも世に言う田舎か。


「なので、まず人手が足りません。それから、費用も足りません。とてもではありませんが、王太子妃様が描くようなことは出来ないかと……」


 ……ふむ、費用の方は初めの方は借金としてこちらで工面するつもりだった。もちろん、そこら辺はお兄様の支援があってこそだけれど。でも、人手の方は私ではどうにもなりそうにない。……う~ん、やっぱり若い労働力は必要なのよね。果樹園に見学の設備を整えるのにも、若い労働力が欲しい。アップルパイの方はご老人にも作れるだろうけれど……。


「お兄様」


 私はお兄様に縋るような視線を向ける。こういう時こそお兄様だ。私はまだそこまで人脈が築けていないし、私的財産もお兄様には明らかに劣る。それに、私ではうまく交渉できないと思う。ここはお兄様の行動を見て、きちんと学ばなければ。


「……ふむ、費用の方はまずこちらで工面しましょう。いずれ領地が発展したら、返していただくという形になりますが。それから、人手に関しては俺の知り合いの伝手を頼りましょう。労働力の派遣をしている人間がいるんです。なので、ある程度は人員の確保が出来ると思いますよ」

「え、えっと……シュトラス様は、いったい……?」

「あぁ、ただの公爵です。ただ、爵位を継ぐまではいろいろなことをしていたので、人脈はあちらこちらにありますけれどね。貴族の人間から、小さな下町の雑貨屋まで幅広く人脈は築いております」


 お兄様のそのお言葉に、デニスさんが唖然とする。……うん、正直私も唖然とした。お兄様は人脈を築くのが上手いとは思っていたけれど、なんだかいろいろと超越している。前世で言うのならばチートよ、チート。一家に一人お兄様が居たら便利なのではないだろうか? ……あ、魔王様を置くということだから危険も付きまとうか。


「ですが、俺はあくまでも補佐になります。メインで動くのは妹の方。……俺も、出来る限り手伝いますが妹の意見を優先させたいと思っております。これから先この国を担っていく一人として、様々な経験をさせてあげたいと思っているのです」

「そうなのですか。いや~、シュトラス公爵はお若いのに素晴らしい考えの持ち主で……」


 ……しかも、なんだか意気投合されている。まぁ、確かにお兄様は素晴らしい人よ? でも、中身魔王様だからね!? そう言う意味を込めてお兄様を見つめれば、お兄様は「さて、アナスタシア。考えを話しなさい」と指示されてくる。……この国で王太子夫妻に意見が出来るのは、お兄様ぐらいしかいないのではないだろうか? 国王夫妻もそこまで口出しされてこないし。……やっぱりいろいろな意味でチートだ。


「……では、お話させていただきます。私がイメージするのは観光業と名産品のりんごを使ったスイーツが主です。もちろん、スイーツはお手頃価格に設定して――」


 その後、私は二十分ほど自分の考えをデニスさんに説明した。納得してくれるかは分からない。それでも、今の私の精一杯を、伝えたつもりだ。

……ヒーローよりも兄の方がよっぽどハイスペック……(´・ω・`)自覚ありますよ?

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悪役令嬢離縁表紙


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