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悪役令嬢と王家の事情


「王太子殿下。そこが間違っていますね」

「……なんで、こんな朝っぱらから……」

「俺に指導を仰いだのは王太子殿下ではありませんか。俺はこれから用事があるので、本日はこの時間しか取れなかっただけです」


 この屋敷の食堂だという部屋にたどり着くと、そこではすでにお兄様とウィリアム様がいらっしゃり、何かをしていらっしゃった。ウィリアム様はテーブルに突っ伏しており、そのお隣にお兄様が仁王立ちしていらっしゃる。……会話の内容からして、お兄様が何かを指導しているのね。


「……アナスタシア」


 ウィリアム様が私が来たことに気が付いたのか私の名前を呼ばれる。あのですね、そんな縋るような視線は止めてくださいませんか? 私は確かに聖女ですが、聖女だけでは魔王には勝てないんです。勇者とか剣士とか魔法使いとかが必要なんです。それ、RPGの基本でしょう? あ、この世界にはRPGなんてないのか。


「え、えーっと……ごきげんよう」


 私は恐る恐るそう言って、自分の席だという場所に腰を下ろす。出来る限り、ウィリアム様とお兄様の邪魔にならないように、と空気に徹する。ウィリアム様が私に助けを求めてきているようだけれど、そこは無視をした。だって、私たち世に言う仮面夫婦。仲良くない。助け合うぐらい仲良くない。


「あぁ、そうだ。アナスタシア。食事が終わって一時間後に領地の見学に向かうことになっているからな。準備をしておくように」

「はい、お兄様」


 お兄様のお言葉に、私は静かに頷く。領地見学のプランはほぼすべてお兄様が組み立ててしまった。こういうのは適材適所だとか何とかで。……そうなると、ほぼすべてのことをお兄様が請け負うことになりそうなのは、気のせいということにしておいた。私は斬新なアイデアを出す係なのだろう。お兄様に指導していただくつもりはあるのだけれど、初めの方は頼る方が多いに決まっている。ちなみに、マックスさんはお兄様の補佐。シルフィアさんは護衛という役割だ。


「王太子殿下。そろそろ、一度終わりましょうか。食事の時間ですから」

「……そ、そうか」

「ですが、明日からもこの時間に頑張りましょうね」


 最後の一言は、どうやらウィリアム様にとってとどめになったようだった。遠い目をしていらっしゃる。どうにも、お兄様がウィリアム様に何かを指導していらっしゃったようだけれど、正直に言って人選を間違えている感が否めない。お兄様、指導となると鬼だから。優しいのは妹のアナスタシア限定なのだ。


「お兄様。旦那様に、何を指導されていたのですか?」


 ウィリアム様が遠いところを見つめられているので、私はお兄様にそう声をかける。すると、お兄様は「いろいろな書類の作り方だな」などとおっしゃる。……? 書類の作り方とか、王家の家庭教師の方が指導するのではないのでしょうか? 貴族はそういうことになっていましたよね? いや、私は令嬢なのでそういう方面はさっぱりですが……。


「……王太子殿下が一番学ぶべき時は、王家の財政が一番ひどいときだったからな。はっきりと言って、最低限の家庭教師しか雇っていなかったに等しいんだ。だから、こういうことは大体大臣が肩代わりしてきた」


 ……いや、それかなりヤバいんじゃないですか? 私はそう思って瞳を瞬かせる。王太子とは、次期国王となる存在だ。そのお方には高水準の教育を施すのが普通じゃないですか。なのに、最低限しか学んでいないって……。私、かなりの事故物件と結婚しちゃった系でしょうか?


「だが、王太子殿下もこれではだめだと分かったんだろうな。何故か突然俺に指導をしてくれと頼みに来た。……いったい、どんな心境の変化があったんだか」


 お兄様は未だに放心状態のウィリアム様を一瞥して、そうおっしゃる。……うん、この世界乙女ゲームの世界だからキラキラとしていると思っていたのだけれど、かなりどろどろとしているわね! 王家の財政がそこまでひどい時があったのも初耳だし。私、ここ数年のしか調べていないし。


「ま、あのお人好し王家の中ではまだ見込みがあるさ。なんといっても、向上心がある。向上心が無かったら、何をしようにも無駄になるからな。……それに、お前の結婚相手をしごけるなど最高じゃないか」


 ……お兄様、最後のが一番の目的でしょう? お兄様はアナスタシアを溺愛している。だから、アナスタシアと結婚したウィリアム様が気に食わないのだ。いくら一番近いところにいる友人とはいえ、結局お兄様はアナスタシアの方が大切なのだろうから。


「……王家と言えば、ジェレミー殿下はどうなのでしょうか?」


 今、ウィリアム様が王家で必要最低限の教育しか受けていないということを知った。だったら、第二王子殿下のジェレミー様はどうなのだろうか? やはり、ジェレミー様もウィリアム様同様?


「……あの第二王子殿下は、すべて独学で行っていたはずだ。だから、俺も良く知らない」

「……そうなんですか」


 いや、全てが独学っていったいどういう頭脳をしているんですか!? ウィリアム様も乙女ゲームのメインヒーローということからかなりハイスペックだと思っていたけれど、ジェレミー様の方がハイスペックなのだろうか?


「まぁ、関係ないさ。あの第二王子殿下は王家のお人好しの性格を受け継ぎすぎている。だから、人の上に立つ素質はあまりない」


 お兄様がそうおっしゃるのならば、そうなのでしょうね。私はそう思って、ジェレミー様のことは脳内から外した。それがきっと――間違いだったのでしょうね。

シュトラス公爵家組と王家には教育に関する明らかな溝があります。全体的にシュトラス公爵家の方が高水準の教育を施されているので、マテウスからすればウィリアムに施された教育は「最低限」に見えるんですよね……(´・ω・`)

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーが面白いですねヾ(●´∀`●) ゲーム内のヒロインが攻略対象に嫌われているという所。 斬新ですねヾ(●´∀`●) [気になる点] コミカライズから来たので、違いがきになるかな・・…
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