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悪役令嬢の躱し方


「……無理、だと思いますわ」


 それから数分後。私が発したのはそんな言葉だった。何が無理と問われれば、いろいろと無理なのだ。アナスタシアのままだったら、きっとこの提案に喜んで乗っかっただろう。でも、私は私。もうアナスタシアじゃない。


「そもそも、一度破綻した関係を良好にするには、かなりの時間がかかります。今日明日、そんな短期間で導き出せる答えでもございませんし。なので、この件はとりあえず保留ということで」


 そもそも、命を狙われているのに呑気に恋愛なんてしていられない。それが、一番の本音。ヒロインと、その裏にいる人物が分からない限り恋愛なんてしない。いいや、分かっていてもウィリアム様からそう言われたら何かと都合をつけて躱すつもりだ。


「命を狙われている状態で、呑気に関係の修復など図るつもりはそもそもありませんから。だって、旦那様が私の命を狙っている可能性も、あるじゃないですか」

「……そうか」

「えぇ、身内であろうと一応疑うのが大切ですからね」


 まぁ、貴方ではないと九十九パーセント私も思っておりますけれどね! でも、いろいろな視点から物事を見るのは大切なのだ。今わかっているのは、狙われているのがアナスタシア(私)だということ。ヒロインの置き土産が何故か都合よく作用しているということぐらいだろうか。ヒロインは幽閉されており、逃げ出したという情報は得られていないため、多分別の人間が動いているんだと思う。


「まぁ、そうだな。アナスタシアは、立派になったな」

「……お兄様ようなことをおっしゃらないでくださいませ。気持ち悪い」

「そう言うところも兄にそっくりだ」


 うん、それは言ってほしくなかったわね。だって、お兄様と一緒ということは私も「魔王様」ということでしょう? う~ん、魔王様の妹と言った方が正しいかな。立場的には。


「どうやら、俺の提案はうまいこと躱されてしまったようだが……これぐらいで諦めるような人間では俺はないんだ。俺は執着心だけは強いからな」

「その分、新しいことに目を向けないのですよね。新しいことに目を向けるのも、新鮮でいいかと思いますわよ」

「そうか。だから、お前は領地経営なんてしたいと言ったのか」


 ウィリアム様は、そうおっしゃってふんわりとした笑みを浮かべられた。その笑みを見て、私の側で控えていたニーナが驚いているのがわかる。まぁ、そうよね。ウィリアム様は『氷の王太子』なんて異名も持っていらっしゃるから。滅多なことではこんな風に笑われないわ。明日は槍でも降るのかしら? そう思っても仕方がないぐらいよ。


「……そう言えば、前々から気になっていたのですがキャンディ様のこと、旦那様は本当はどう思っておりましたの?」

「……どう、とは?」

「そりゃあ、『好き』とか『嫌い』とかそう言うことですわ。あんなにも可愛らしい女の子に言い寄られて、旦那様もさぞ気がよかったでしょうね」


 我ながら意地の悪い質問だと思う。お兄様もだけれど、ウィリアム様も多分キャンディ様を好いていなかった。お兄様なんてキャンディ様のことを「顔を見るだけで寒気がする。悪魔みたいだ」なんておっしゃっていたんだもの。ターゲットにされていないお兄様でもこうなのだから、ターゲットにされていたウィリアム様の嫌悪感はかなり強いのではないだろうか。


「好きか嫌いかで問われれば、大嫌いだ。というか、苦手なタイプだな。天真爛漫に見えたが、腹の中は黒いし。裏で様々な人間を蹴落としていたことも情報として得ていた。……そもそも、俺は可愛い女には興味がない」

「まぁ、可愛らしい子が好みではないなんて、意外ですわ」

「どちらかと言えば、綺麗系の女が好きだな。そもそも、初めて好きになったのが幼い頃のアナスタシアなんだから、それぐらいは予想がつくだろう」


 ……そう言えば、そうでしたね。自分にとってあまりにも都合の悪いことだったので、頭の中から消去しておりましたわ。


 しかしまぁ、乙女ゲームではどうだったのでしょうか? やはり、ここら辺も運が関わっていたのでしょうか? 運がよければ、ウィリアム様は可愛らしい子が好みで、運が悪ければウィリアム様は美しい子が好みとか。……無理ね。その場合製作者側の負担が大きすぎる。私が企画を作ったら即却下ものよ。


「あの女の瞳の奥には、打算やら欲望の感情が色濃く出ていた。だから、聖女にも選ばれなかったんだ。ま、他の聖女にあれだけ毛嫌いされていたら当然だがな」


 うん、それもそうですね。ほかの聖女様にも傲慢に振る舞っていたようですから。聖女という職種は年功序列みたいな感じがありますし。新米は大人しく雑用をしておけっていうことですよ。前世で言う運動部みたいな感じですかね。


「……あぁ、そろそろ俺は戻るか。あまり病み上がりの人間を取っ捕まえるわけにもいかないし。……お前の兄が怖いし」


 そんな時、ウィリアム様が時計を見てそんなことをおっしゃる。よし、これでウィリアム様とのお話は終わりね。最後に本音が見え隠れしたのは、都合よく聞いていないフリで。


「じゃあな、アナスタシア。……これからは度々お前と話そうと思う。また、明日な」

「……えぇ」


 本当は会いたくないんですけれどね。むしろ、一ヶ月に一回会えばいい方ですよ。そう思いながら、私はウィリアム様の背中を見つめていた。その背中が、どこか寂しそうに見えてしまったのは気のせいだということにしておいた。


(でも、今は私自身のことで精一杯だし。まずは領地経営を成功させて、ヒロインの動きも探らなくちゃね)


 心の中でそう考えをまとめて、私は寝台で毛布にくるまる。とりあえず、一旦眠ろう。そう言う意味だった。

次回第一章最終話です。ウィリアム視点になります。

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


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