聖女と捜し人
「……バネルヴェルト公爵。とりあえず、落ち着きましょう」
頭をフル回転させて、私はバネルヴェルト公爵にそう告げる。
そうすれば、彼は「何落ち着いてんだよ!」とおっしゃり、私の胸倉を乱暴につかんでこられた。……相当、取り乱されている。
それだけ、ミアのことが大切だということなのだろうな。確かに私だってミアのことを大切に思っている。でも、落ち着かないと守れるものも守れない。
「ミアのことを考えるのならば、まずは落ち着くべきです。……取り乱していたら、守れるものも守れません。救えるものも、救えません」
冷たい声でそう言えば、バネルヴェルト公爵は私のことを思いきり睨んでこられる。けれど、その後すぐに「……そうだな」と零され、私のことを解放してくださった。
……バネルヴェルト公爵の気持ちは、痛いほどによく分かる。私も、取り乱してしまいそうだったから。でも、私たちに対した魔法の知識はない。だから、私たちが出来ることなど何もない。こういう時に頼れるのは……その道のプロ。
「……バネルヴェルト公爵。ミアの居場所を調べましょう。お二人ほど、力になってくれそうな方の心当たりがあります」
「……そうか」
バネルヴェルト公爵は剣の腕はかなりのものらしいのだけれど、魔法の腕はそこまでではないらしい。もちろん、一般人から見れば魔法の腕もかなり優秀になる。しかし、やはり本職には敵わない。そのため、私たちが今頼るべきは――。
(シルフィアさんと、マックスさん)
宮廷魔術師であるシルフィアさん。そして、その師匠であり現在は図書館司書を務めているマックスさん。お二人にお願いをして、ミアの居場所を見つけ出すことは出来ないだろうか? そう思って、私はとりあえずとばかりにシルフィアさんの元を目指すことにした。
「……頼るって、誰を頼るんだよ」
バネルヴェルト公爵は、私の横に並びながらそうおっしゃる。だからこそ、私は「……宮廷魔術師の方、です」と静かに告げた。
宮廷魔術師は、その名の通り王家に仕える優秀な魔術師の総称。現在は十名前後が在籍している。
その中でも最も優秀であり、才能があると言われているのがシルフィアさんという女性。元は男爵家の子女らしいのだけれど、諸事情により実家とは縁が切れているとかなんとか。ううん、知らない方が良いこともあるのだ。私は、知るべきではない。
「シルフィアさんならば、調べられる可能性があると思います。……多分、現状ジェレミー様に対抗できるとするならば、シルフィアさん。もしくはその師匠であるマックスさんくらいかと」
ジェレミー様の魔法の腕はそこら辺の魔術師では到底敵わない。もちろん、魔法使いでも。
けど、魔術師の中で対抗できそうなのがお二人いる。それが、先ほど述べたシルフィアさんとマックスさんだ。
マックスさんは一時期は賢者とまで言われたほどの魔法と魔術の使い手らしい。私は全盛期の彼のことをよくは知らないけれど、シルフィアさん曰く「すごくかっこよかった」とのこと。
……まぁ、シルフィアさんはマックスさんに常にべた惚れなわけだし、いろいろな意味であてになりそうにはないのだけれど。
「……俺さ、騎士としての実力はあるけれど、魔法の腕はあんまりなんだよな」
そんなことを考えていれば、不意にバネルヴェルト公爵が寂しそうにそうおっしゃる。それに、私は軽く驚いてしまった。バネルヴェルト公爵も、こんな風に弱音を吐くことがあったのねという意味だ。
「その点、ミアの魔法はすごい。……俺、ミアのそういうところも好きなんだ」
「……そうなの、ですね」
確かに、ミアは魔法を使いこなしている。聖女になれば実力派聖女として王国に名をとどろかせる可能性が高い。そんなミアだけれど、何処となく自分に自信がない。
そこが、そもそもの間違いなのだ。ミアくらいの実力があれば、もっと自分に自信をを持ってもいいのに。
「……ミアは、自分に自信がないですよね」
バネルヴェルト公爵にそう声をかければ、彼は「……そうだな」と消え入りそうなほど小さな声でおっしゃる。
そして「……俺の婚約者になるのも、一度は断ってきたくらいだ」と続けられた。
「自分じゃ釣り合わないって、言ってきた。けど、俺、ミアのそういうところも好きだ。ひたむきで努力家で、何事にも必死に取り組んで。笑顔がすっごく可愛いんだ。……だから、ぜってーにミアを助ける」
「……わかって、おります」
その気持ちには同意するしかない。私もミアのことを大切に思っているし、彼女の性格も好いている。それに、笑顔が可愛らしいことも知っている。だから、ミアのことを絶対に助ける。
そう思っていれば、宮廷魔術師が使っているフロアにたどり着く。ここは宮廷魔術師一人一人の個室があり、主に研究のために使うお部屋になっているそうだ。お部屋にかけられたネームプレートを見つめながら、私はシルフィアさんのお部屋を探す。
(正直、ここに来るのが初めてだから、どういう感じなのかもわからないのよね……)
シルフィアさんとも面識があるとはいえ、彼女のお部屋を訪ねたことはない。
そう思いながら私たちがフロアを移動していると、後ろから「アナスタシア様!」と声をかけられた。その声は、聴き間違えるわけがない声だった。
「シルフィアさん!」
私が今、必死に捜している人物であるシルフィアさんの声だから。




