聖女と二人の王子様
「ふむ、確かにそういう考えもあるかもしれないですね、王太子殿下。でも、俺の考えだって一理あるでしょう? 子は親を選べない。生まれる家だって、選べないんだ」
「たとえそうだったとしても、だ」
そうおっしゃって、ウィリアム様はジェレミー様を睨みつけられる。……というか、こんなにも大きな音がしたのに、どうしてウィリアム様以外の人が駆けつけてこないの? それ、絶対におかしいでしょう? 私、仮にも王太子妃よ?
(ジェレミー様、また何かをやられたわね……)
ジェレミー様は自他ともに認める天才だ。だから、何か特殊なことをするのも容易い。きっと、魔法で護衛たちを眠らせたとか、そういうことだろうな。……うん、そうだと信じよう。無駄な血が流れていないのならば、今はそれで構わない。
「俺はね、この世もこの世界もこの国も大っ嫌いだ。……だから、全部壊れればいいって思ってる。……そんな考え、持っちゃダメかな?」
「……持っていいわけがないだろう。そもそも、お前は――」
「――王族だからって、何? 恵まれているからって、何? 俺としては、恵まれた家に生まれるよりも、自分の好きなことが出来る環境に生まれたかったよ」
その声は、静かな声だった。まるで何の感情も宿していないような。そんな声は冷たくて、背筋が凍るような感覚に陥る。……あぁ、ジェレミー様、もしかしてだけれど――。
「……旦那様、少し、ジェレミー様とお話させていただけませんか?」
そもそも、ジェレミー様は私のことを訪ねてこられたのだ。だったら、私が話をしても問題はないだろう。そう考えて、私がウィリアム様とジェレミー様の間に入り込めば、ウィリアム様は「おい!」と叫ばれる。でも、ここで引くような私じゃない。
「……ジェレミー様。もしかして、貴方様は旦那様に劣等感を抱かれているのではありませんか?」
どうして、そう思ったのかはよくわからない。ただ、ウィリアム様への態度や言動を見ると、全てがそういうことを表しているのではないかと思ってしまった。とにかく、今わかることは。このお方は何処かで道を間違えてしまった。そして、その道を正してくれる人がいなかった。そういうことだろうか。だから今、こういうことになっている。
「どうして、そう思われるのですか?」
「態度、ですかね。ジェレミー様は、旦那様に対して何処か冷たい態度をとっていらっしゃるような気がしたので」
私のことを「アナスタシア様」と名前のままで呼ぶのに、ウィリアム様のことは「王太子殿下」と他人行儀な呼び方に変わった。それはつまり……ウィリアム様と一緒にいたくないという、遠回しな意思の伝え方ではないのだろうか?
「……けどさ、どうして俺が王太子殿下に劣等感を持つのですか? 言っちゃあなんですが、俺は王太子殿下よりもずっと優秀です。俺は、稀代の天才です」
確かに、それは一理ある。いや、全てだ。でも、ジェレミー様にはたった一つだけ、ウィリアム様に勝ることが出来ないことがある。それは――。
「……ジェレミー様は、第二王子として、次男として生まれてきたことが、嫌だったのではありませんか?」
このキストラー王国の王位継承権は、基本的には生まれた順番。だから、ジェレミー様はどう足掻いてもその点ではウィリアム様に勝てない。もしかしたら、そこが心に影を落としてしまった原因なのかもしれない。私は、そう思った。
(そもそも、ウィリアム様は幼少期から次期王太子として持て囃されてきたわ。……たとえジェレミー様の方が優秀だったとしても、周囲はウィリアム様の方をちやほやとしてきた)
そのちやほやの中には、もちろんアナスタシアもいる。それに、ウィリアム様はなんだかんだ言っても、周囲から愛されている。もしかしたら、それが――……。
私が、そんなことを考えていた時だった。
「ふざけたことを言うな!」
ジェレミー様は、唐突にそう叫ばれた。それは、今までとは違う。心の底からの叫びのようにも聞こえてしまう。
「俺は、俺はっ! 王太子殿下に対して、劣等感なんて抱いたことはない。だって、俺の方が優秀だから――」
「――そうだな。お前の方が、俺よりもずっと優秀だ」
震えながらそう叫ばれるジェレミー様に、ウィリアム様は淡々とそう告げる。そして、「俺はそんなお前に、ずっと劣等感を抱いていた」と続けていた。
「なんでもできる天才肌。お前がそう言われる度に、自分の才能のなさを恨んだ。お前を妬んだ。俺がどれだけ努力しようとも、お前には敵わなかった。ずっと、ずっと、俺はそれが悔しかった」
「……旦那様」
それは、薄々私も感じていたことだった。ウィリアム様は努力型の天才で、ジェレミー様は生粋の天才。だから、ウィリアム様が密にずっと劣等感を抱いていたことも。ずっと、悔しがっていたことも。私は、うっすらと気が付いていた。
ウィリアム様だって、自分がちやほやされるのは王太子だから。それを――肌で感じ取っていらっしゃったのだろう。
「俺はな、ずっとお前が憎たらしかったよ。それでも、たった一人の弟だからって、お前に兄貴面してきたつもりだ。……でも、それは無駄だったんだな」
ウィリアム様はそうおっしゃると、静かに乾いた笑いを零された。その姿が何処となく弱々しく見えてしまって、私の心の奥が疼いたような気がした。
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