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最強の聖女は恋を知らない  作者: 三ツ矢
第二部 エンディングまであと一年~再来~
94/201

幕間 魔女と聖女のチェス対決~魔女の過去~

 その翌日、私は王城に登城した。もうすぐ、国際博覧会の閉会式を迎える。その後のフェアリーライトパレスの利用法の提案や今回公開された技術の利用法、その他様々な問題を一つ一つ片付けていく。そこに秘書がやってきた。


「マヤ様、レイラ様がご面会にいらしてます」

「……お通しして。それとお茶と人払いを」


私は短く返事をした。秘書がドアを開けると薄紫色のレースのドレスを着たレイラが立っていた。

軽くドレスを摘まんで一礼する。


「ごきげんよう、マヤ様。お時間大丈夫かしら?」

「ええ、お越しいただきありがとうございます、レイラ嬢。どうぞ、おかけになって」


私は部屋の真ん中に用意されたソファーを示した。優雅な仕草でそっとソファーに腰掛けた。


「今日はチェスでもいかがかなと思ってお持ちしましたの。チェスはお好き?」

「ルール程度ならわかりますよ」

「まぁ、良かった。今日はライアン様も公務でいらっしゃらなくって一人きりなの。

一ゲーム、お付き合いして頂けません?」

「私で良ければ、お相手仕りましょう」


駒を順々に置いていく。先手は白のレイラからだった。レイラがポーンを二つ動かす。


「先日は魔術武道の模範演技、ライアン様と共に見学させて頂きましたわ。マヤ様の召喚された精霊も美しく強く、魔術も鮮やかなお手並みでした。この国の高い魔法レベルに大変感銘を受けました」

「それはどうも。レイラ嬢ほどの魔術の使い手にそう言って頂けるとは恐縮です」


私も同じeの黒いポーンを二つ動かす。二つのポーンがぶつかり合う。


「わたくしの力なんてささやかなものです。その証拠に三人の魔法を解いてしまわれたではありませんか?」


レイラの細い指がナイトの駒を進める。


「ええ。でも、未だあなたの思惑通りに事は進んでいる……違いますか?」


私も黒のナイトに手にする。


「そうですね。一昨日、ライアン様とお出かけされたとお聞きしましたが、どうやらライアン様のお心はまだお変わりになっていないようですわね。帰ってくるまでとても不安だったのですけれど、昨日お会いしてとても安心しましたわ」


ビショップの駒が盤上を斜めに走る。


「イーサン元先生を使って、あなたを呼び出したのはどなたですか?私が邪魔でしたら、もっと直接的に私に仕掛けるべきです。他の人たちを巻き込むのはお止め下さい」

「……少し、昔話をしましょうか。昔、こことは別の世界に小さな女の子がおりました。その女の子は生まれた時から薄紅色の髪をして、誰にも見えない不思議な紫色の蝶々が周りを舞っておりました。その事を母親に話すと、母親はとても驚いてこう言いました。『お前のその力は忌まわしい悪魔の力だ。決してその力を使っても見せてもいけないよ』そう諭した母は私のことをイサラ、小悪魔と呼びました」


レイラは駒を動かし、ゲームが進む。


「母は娘の髪を汚らしいドブのような緑色に染めました。母は地主にお手つきされた女で腹が膨らむといくらかの手切れ金を貰って故郷の村に帰りました。しかし、未婚の妊婦は歓迎されず、家を買って暮らしておりましたが、その生活は楽ではありませんでした。娘にとっては唯一の家族でしたが、やがて流行り病で死んでしまいました」


盤上の駒が少しずつ減っていく。


「母の言いつけを守った娘は髪を染め続けました。そんな娘を愛するものは誰もいませんでした。娘は大人になり、細々と暮らし、やがて歳を取り、働くこともままならなくなってきました。そんなある日、女は一人の少女が川辺で泣いているのを見ました。女が訳を尋ねると少女は失恋したと嘆くばかりでした。哀れに思った女は近くにあった一輪の菫を摘み、そこに願いを込めて周りを舞う蝶を一匹付けて渡しました。『この菫をあなたの想い人にお渡しなさい。ただ、自分の事は決して他の人に言ってはいけない。すると効果を失ってしまうから』少女は頷くと想い人に菫を渡しました。すると二人は結ばれました。それから、どこから噂になったのか、女の元に恋に悩む少女たちが度々訪れました。女はいくらかのお金をもらうことで、何とかその日その日を暮らしていけるようになりました」


けれどとレイラは言葉を区切りながら私のナイトを奪った。


「恋人を奪われた少女の一人が女を魔女だと異端審問官に密告しました。女はすぐに捕まり、魔女の刻印を押され、火刑に処される日を待つばかりでした……」


私はレイラのビショップを取る。


「それから?」


「それでおしまい。わたくしのクィーンであなたのキングがチェックメイト。わたくしの勝ちですね」


ふふふとまるで花が風にそよぐように愛らしい微笑みだった。


「お忙しい中、お付き合いいただきありがとうございました。残りのお時間が充実したものになりますように。それでは、また」

「ええ、それでは」


私は置いていかれたチェスの盤上を見ていた。


「あなたがクィーンなら、あなたのキングは一体誰なのかしら?」


冷めたお茶を啜りながら、私は考え続けていた。


お読みいただきありがとうございます。

悪役偽令嬢レイラの過去が明らかになりました。

それではまた後程、続きでお会いしましょう。

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