第三章 国際博覧会と恋の行方~オルゴールは流れない~
花火によって時々明るく照らされる観覧車の中で、私は今日ずっと大切に持ち続けていた包みを取り出した。
「ライアン様、覚えていますか?私たちが三回生のころ剣術の試験で試合した日のことを」
「ああ、覚えていますよ。確か、決勝で戦ったんでしたね・・・・・・あれは良い試合でした」
「あの時、ライアン様は私のことを好敵手と呼んでくださいました。
今の私へのお気持ちはどうですか・・・・・・?」
私は包みを開け、中に入っていた小箱を開き、中のネジを巻く。すると音楽が流れ始めた。
「このオルゴールの曲は『カンパニュラ』……」
ライアンがそっとそのオルゴールに手をやる。私はその手に重ねるように手を添える。
「ライアン様……どうかお心を教えてください」
その時、一際大きな花火が上がり、ライアンの端正な横顔が闇の中で鮮やかに浮かび上がった。
ライアンはそっとオルゴールの蓋を閉じた。
「クラキ殿、俺は貴方から沢山のことを教えてもらいました。
好敵手であり、それ以上の関係を求め、そのような言動をしてきました。けれど、今は……」
ライアンは手をすっと引く。
「俺には今、気になる女性がいます……それは、貴方ではない」
私は愕然として目を見開く。ライアンは顔を伏せ、言葉を続ける。
「クラキ殿の心はわかりました……彼女と出会う前の俺だったら、心の底から喜ぶことができたでしょう。でも今はもう……すまない。貴方なら他に相応しい人がいるはずです。俺のことはどうか忘れてください」
私の右目からはすっと涙が零れ落ちた。
その頬に流れるものを私は悟られないよう、窓の外へ視線を向けた。
景色に見入っているように見せかけなければ、涙を抑えることができなかった。
顔を伏せて大泣きしてしまいたかった。
今ライアンがどんな表情を浮かべているか知りたくなかった。
こんなに空は綺麗なのに、都は美しいのに、私の気持ちは真っ暗だった。
私は震えそうになる声を堪えながらライアンに告げた。
「……ライアン様に今日はもう一つお伝えしなければならないことがあります。私は今年いっぱいでこの国を去ります……もう二度と会うことはございません。どうか、どうか、幸せになって下さい」
「そうですか……お引止めしても、無理なのでしょうね」
「ええ、どうにもならないことです。今日はお付き合いいただきありがとうございました。
良い思い出になりました」
「クラキ殿もどうかご健勝で」
観覧車が下へと降りてくる。もう何も語るべきことはなかった。
私たちはフェアリーライトパレスの出口で道を分かれた。
私は三人に手紙を書いた。簡潔に一行だけ書いた。
『ありがとう。残りの時間を大切に過ごしたいと思います』
私はそれ以上何か書こうとして上手く行かなかった。
どうやっても、言葉が出てこず、ただただ涙があふれた。
私はこの世界に来て初めて一晩中ただひたすらに泣き続けた。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークありがとうございます!
今後の展開はどうなるのでしょうか?
どうぞお付き合いください。




