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最強の聖女は恋を知らない  作者: 三ツ矢
第二部 エンディングまであと一年~再来~
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第三章 国際博覧会と恋の行方~真剣勝負~

 それから二週間ほどかけて、私は魔法武道の鍛錬に励んだ。

近衛隊の隊長は優秀な指導者であり、戦術面で知恵を授けてくれた。

近衛兵たちとも試合を通して、不思議なことに連帯感が生まれつつあった。


「クラキ殿、今の魔法はどう使うのですか?」

「先ほどの炎魔法もう一度見せてください」

「クラキ殿、当日は行けませんが、応援していますね」


私は彼らの向上心と矜持、そして真心に触れ胸がいっぱいになった。


「クラキ殿、もし顧問魔術師の職をお辞めになったら、ぜひ近衛隊にいらしてください」


練習最後の日、隊長は笑って私を励ましてくれた。


 いよいよ模範演技当日となった。

この魔法武道会は王やライアン、アッシャーたち王族たちも観覧に来るらしい。

私は入場する前に、やっとエヴァンと話すことができた。

久しぶりに見るエヴァンは更に鍛えられ、精悍な表情になっていた。


「お久しぶり、エヴァン。元気だった?」

「オレは変わらない……悪いが集中しているんだ。黙っていてくれないか?」

「わかった。それじゃあ、一つだけ……もし、私が勝ったら一つだけ私の願いを聞いてくれない?」

いいだろう。代わりにオレが勝ったら、もう関わるな。お前には学生時代負けた……うっ」


エヴァンが額に手を当てる。

私は記憶が戻りかけた副作用だとわかり、痛ましい目でエヴァンを見る。


「大丈夫、エヴァン?」

「平気だ。何でこんな時に、また……!」


エヴァンは痛みを堪えつつ、冷たい瞳で私を見据えた。


「そんな軽装でオレをまだ見下しているなら大間違いだ。学生時代のオレとはもう違う」

「分かってる。全力で戦うよ」

「この試合必ずオレが勝つ」


そこでファンファーレが鳴った。

二人は満員の競技場へと入場していった。

広いコロシアムのような砂の競技場に歓声が響く。


「それでは聖フローレンス王国国際博覧会におきまして、これより開催されます魔法武道大会の模範演技としてお二方に登場して頂きました。一人目は王立軍期待のホープ、エヴァン・ガルシア魔法特務士官!」


エヴァンが大太刀を掲げると、歓声が上がった。

どこかで指笛を吹いている者もいる。


「二人目は驚きです。二年前、王国を救った異邦人、聖女マヤ・クラキ!」


更に歓声が大きくなる。私はいつもの瑠璃色のローブに胸当てを付けただけの軽装だった。

それに金属のメイスを右手に握りしめる。すでに汗でじっとりと濡れている。


「両者構え!開始!」


エヴァンは大太刀を振り上げ、地面に突き立てる。

地割れが私に向かって走ってくる。

地の魔法の大魔法だ。私は急いで回避行動をとる。

それを見越していたように水の弾丸が私へ飛んでくる。

風の魔法で水の弾の方向を無理矢理変える。

私は競技場内を走り回る。

その時、エヴァンの最初の一撃である隆起した地割れに足を取られ、一瞬顔をしかめる。

しかし、準備は整った。土の壁を出現させ、水の弾を消す。

次の瞬間エヴァンの大太刀によってまるで砂上の楼閣のようにあっさりと土壁が破られる。

だが、そこに私はいない。更に土壁が存在している。それもあっさり破られるが、時間は稼げた。

私は羊皮紙に血を垂らし、呪文を唱え終わっていた。


「何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん!」


魔法陣が真っ赤に輝くと、炎の鬣をもつ白馬に騎乗した燃える髪を持つ精霊が現れた。

競技場から突然現れた美しい精霊の姿に感嘆の声が上がる。


「お久しぶりです、フランマ」

「久しいの、異世界の旅人よ。今日はまた騒がしいところに呼ばれたものよ」

「フランマ、どうか私に炎と風の守護を」

「良かろう。汝の望むがままに」


私の背中に炎の翼が宿る。観客たちが空中に浮かぶ私を見て驚く。

最後の土壁が破られた時、私はエヴァンの頭上に飛び、メイスを振り下ろした。

エヴァンはその一撃を受けて、後ろに少し下がる。


「フランマ、メイスに炎を!」

「ご随意に」


フランマが扇をふわりと動かす。私のメイスに赤々とした炎が灯る。

エヴァンも負けじと呪文を唱え、剣に氷を纏わせる。二人の力は拮抗していた。

メイスの炎が映り込んだエヴァンの緑の瞳が闘争心で燃えている。

観客たちの興奮が伝わってくる。私はエヴァンに囁きかける。


「エヴァン、約束したよね?『どんなものからも守ってくれる』って」

「……昔のことをいちいち持ち出すなッ!」


エヴァンは眉をひそめ、力任せに私を突き放した。私は後方に飛び退ける。

エヴァンは痛みから息が荒くなる。エヴァンのいつものクールな表情が苛立ちと怒気が満ちる。


「オレはここでお前を倒す。倒して、オレは強くなる!」


私は真っすぐにエヴァンを見つめる。


(エヴァンも苦しんでいる……)


今は私の存在も私との思い出もエヴァンを苦しめることにしかならない。

メイスと剣が交錯しながら、私はエヴァンから目が離せない。


(私のわがままであっても、エヴァンに元に戻ってほしい……!)


そのためにはここで負けられない。


「猛き炎よ、風と共に舞い上がれ!」


メイスの炎が大きくなり、私はエヴァンへとメイスを向けた。

風によって炎が更に勢いを増し、炎がエヴァンを取り囲む。

エヴァンは水魔法を使って、炎を消しにかかる。

消えた瞬間、私はエヴァンへとメイスを全力でメイスを打ち下ろした。

エヴァンが大太刀でそれをうけとめると金属がぶつかり合う硬くて嫌な音が鳴った。


「そこまでッ!」


時間切れだった。私はエヴァンに一礼して、フランマに礼を述べた。


「ありがとうございました、フランマ」

「良い。面白きものが見れた。達者でな、異世界の旅人よ」


フランマが消えていくと観客たちからも名残惜しそうな声がそこかしこに聞こえた。

私は落胆しながら、メイスを杖代わりに競技場を後にした。


(勝てなかったから、賭けは無効よね……)


その時、エヴァンが声をかけてきた。


「おい、クラキ。お前の願いとはなんだ?」

「え?」

「願いはなんだと聞いている」

「だって、私、エヴァンに勝てなかったよ」

「お前はオレに勝った……見ろ、この剣を」


掲げられたエヴァンの大太刀にはヒビが入っていた。


「その上、お前、足を捻っていただろう」

「あっ……気付いていたの?」

「それで後半は空中戦しか挑んでこなかった。

 試合とはいえ、女に怪我をさせるのは騎士道にもとる。願いはなんだ?」

「あの……それじゃあ、一日、私と一緒に過ごしてくれる?」

「わかった。明後日は一日休暇だが、予定はどうだ?」

「私も空いてるわ」

「それじゃあ、明後日。迎えに行く」


そう言い残してエヴァンは去っていった。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマークありがとうございます!

日々の励みです。

短編「馬鹿王子は家庭教師を溺愛し、男装王女は探偵の助手になりたい」を投稿しました。

興味のある方はご一読ください。

エヴァン編をどうぞお付き合いよろしくお願いいたします。

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