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最強の聖女は恋を知らない  作者: 三ツ矢
第二部 エンディングまであと一年~再来~
80/201

第三章 国際博覧会と恋の行方〜手合わせ〜

翌日からリアンに紹介された王立近衛兵が王宮にあるグラウンドで手合わせをしてくれることになった。


「近衛隊だなんて、そんな立派な方にお願いして大丈夫なんですか?」

「隊長と父はウィロウ王立魔法学園の同期でね。マヤ君が手合わせをお願いしたいと父伝手で頼んだら、ぜひ近衛兵たちに稽古をつけてやってほしいと逆に頼まれてしまったんだよ」


リアンが微笑んで近衛隊隊長を紹介した。私は驚いて大声を上げてしまった。エリートたる近衛兵に稽古をつけるだなんて恐れ多い。


「そうなんですか?!」

「そういうことです、クラキ殿。どんどん若いやつらをしごいてやってください」


はっはっはと闊達に髭を蓄えた大柄な近衛兵隊長が笑った。その後ろでマヤとさほど年の変わらない近衛兵たちがビシッと敬礼をしてきた。


「しかし、クラキ殿、そんな軽装で大丈夫ですか?」

「ええ。着慣れてない甲冑を着ても機動が下がるだけですから。ご心配いりません」

「わかりました。それでは一人目、前に出ろ」

「はっ!」

 

私は久しぶりにメイスを取り出して構える。


「リアン先輩、確認ですけど、召喚もありなんですよね?」

「そうだね。召喚したものに戦わせるのは反則だけど、メイスに力を込めてもらう分には構わない」

「ありがとうございます」

「それでは、各々構え!開始!」


兜と甲冑を着た近衛兵が剣を振り、斬撃と共にかまいたちを発生させる。

私はメイスを突き立て、土の壁を球状に出現させる。

その頂点だけは開けておくが、それは下から見ている対戦者たちからは見えない。近衛兵は土の壁を壊そうと、斬撃を繰り返す音がする。

私は足場を作り出し、軽やかに飛び乗り、そして土の壁の上に足をかけた。

そして、ノーガードの近衛兵の頭上にメイスを当てる。

加減したはずだが、脳震盪を起こし、近衛兵はそのまま昏倒した。


「勝者、クラキ殿!」

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「平気です、このくらい。誰か、衛生兵を呼んでおけ。それでは、次の者前へ!」


 それから十人立て続けに相手をすることになった。

戦っているうちに学生時代の勘も随分取り戻してきた。私の息が軽く弾み、汗をハンカチで拭う。


「さすが、クラキ殿。精鋭十人相手してその余裕とは……最後に吾輩とお手合わせ願えますかな?」

「隊長とですか?! わかりました。よろしくお願いいたします」

「各々構え! 開始!」


私と隊長はお互い戦闘態勢を取ったまま、一歩も動かない。

何もしてないのに、相手として前にするとすごい圧がかかる。

一瞬でも気を抜けばそこを狙われる。それが肌で感じられた。

どこかで風が吹いて、砂ぼこりが舞う。

一瞬瞬きした刹那、隊長が目の前にいた。

私はその剣をメイスで受け止める。重い一撃だった。

私は早口で呪文を唱え、メイスに熱を与える。

メイスと剣がぶつかっている箇所がじわじわと融け出す。

隊長は一度ばっと離れる。距離を取った隊長は泥弾を飛ばしてくる。

私は走りながらそれを避けながら、氷の弾を飛ばす。

隊長はそれを炎を纏った剣で叩き落す。

私はその壊れた氷を核に隊長を氷の壁で取り囲む。

隊長が大出力の炎で氷の壁を一掃する。

隊長がぐるりと剣を一閃させると背後から私はメイスを振り下ろした。

しかし、隊長は後ろに目があるようにそのメイスを後ろ手て一撃を軽く受け止めた。そしてにやりと私の方を見て、振り払った。


「流石だ、聖女殿」

「そこまで!」

「ありがとうございました」

「こちらこそ、ここまで追い詰められたのは十年ぶりだ。戦術が少々荒いが勝負勘と思いっきりが良いのが長所だな。ただ、相手をギリギリまで傷つけないようにと、手の内が読めない間手加減しているのはいかがなものかな。戦いとはそんな甘いものではないと肝に銘じた方が良い」


(バレてる……)


私は自分の力を過信して増長しているのを見破られた気がして赤面して頭を下げた。


「今日は撤収だ。楽しいお手合わせでした、クラキ殿。それでは」


ふうと私は心地よい疲労感からため息をついた。デスクワークが増えてから、実戦から遠ざかっている。身体が鈍っていたので今日はよく眠れそうだ。


(ん?)


誰かから見られているような気がして周囲を見回したが、誰の姿も見えない。私は気のせいかと思い、グラウンドを後にした。


お読みいただきありがとうございます。

本日もどうぞよろしくお願いします。

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