第三章 国際博覧会と恋の行方~植物園で安らぎを~
数日後、国際会議は閉会し、リアンの休日に合わせて二人は国際博覧会へと足を運んだ。
セレモニー会場となったエントランスホールから入り、各国のパビリオンを回った。
「こちらはハーパー連邦の製糸機械です。この国は軍事国家でこういった機械技術では他を圧倒しています」
「とても精密ですね」
「神聖エウロパ公国は西大陸で広く信仰されているアリア教の聖地と言われています。そのため、美術品にも非常に宗教観が強く反映されています」
「なるほど……」
「こちらのイスラ共和国は島国で独自の文化を確立していてイモージェン神という神を信仰しています」
「イスラ人の方とはお話ししました。とても信仰が厚い方々でした」
「そうですか。ペネロペ王国では陶芸やガラス工芸など美術的にとても発展しました。この白い磁器は東大陸から輸入され、その製法が導入されました。当時白い磁器は金と同じくらいの価値を持ったと言われています」
「美しいですね」
「各国のパビリオンはこんなところでしょうか。産業パビリオンの方に移りましょう」
リアンはきびきびと事務的に説明していったが、その眼鏡の奥では好奇心で目が輝いていた。
時間が許せば、もっとゆっくり見たいのだろう。
「これが鉄道です。今西大陸全土にどんどん鉄道網が敷かれています。貿易や旅行は船舶が一般でしたが、これによって物流や人がどんどん変わっていきます。蒸気機関車といって石炭をくべてお湯を沸かし、そのエネルギーで動かすんです。このような動力源だったら魔法が使えない一般人でも操作することができます。そういえば、確か、君の世界でも……」
リアンが額を押さえて形の良い眉根を寄せた。
「大丈夫ですか、リアン先輩」
「ええ、何故だか時々奇妙な頭痛がするんだ。すぐに良くなるから」
私はその姿を見て、胸が詰まった。私のせいでリアンは見えないところで苦しんできたのだ。
(なんとしても、リアン先輩の心を取り戻してみせる)
「少し休みましょう。丁度あちらに植物園があります。
空気も綺麗なところで気持ちが良いと思いますから」
私は植物園へとリアンを連れて行った。
ガラス張りの植物園は温かく、色とりどりの花々に溢れていた。
「これは……見事だね。見たことのない植物がたくさんある」
「あそこにベンチがありますよ。リアン先輩、少し座って待っていてください」
リアンをベンチに座らせると、私は噴水の水でハンカチを濡らし、リアンの顔を拭った。
「すまない。国際博覧会が始まってから仕事が立て込んでいてね。少し疲れていたようだ」
「お疲れ様です。ここで、少しゆっくりすれば元気になりますよ」
二人は周りの緑と花々に見惚れていた。
とても静かで、でもどこかから鳥の声が聞こえてくる。
この世界に来てから、こういう風景から随分と遠ざかっていたような気がする。
(違うか。ずっと忙しくて、近くにある綺麗なものに気付けなくなっていたのかも)
身体の力がすっと抜けていく。私は目を瞑って静かに耳を傾けていた。
しばらくして目を開けると植物園は真っ暗になっていた。
隣にはリアンが背もたれにもたれかかって眠っていた。
「嘘でしょ!?」
私はとりあえずリアンを起こした。
「起きてください、リアン先輩。夜ですよ!」
「ん……夜? 夜だって?クラキ君、扉はどうなっている?」
私は扉を引いたり押したりするが、錠のかかった扉はびくともせず閉まっている。
「他に出入り口は?」
「警備の都合上、出入り口はここだけだよ。錠には魔法避けもかかってるから、開けることはできない」
扉の前であたふたする私に、リアンが冷たく事実だけを告げた。
「そんな・・・・・・」
「明日の朝まで待つしかないね」
リアンの冷ややかな言葉を聞き、予想外の展開に私はため息をついた。
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続きはまた後程アップします。




