第三章 国際博覧会と恋の行方~国際会議で秘密の手紙~
私は国際会議の資料を読み込んだ。
今回の議題は工業や化学、魔法科学の特許に関する問題である。
各国の思惑としては自国の技術を守りつつ、他国の技術を取り入れて更なる工業の発展を望んでいる。それらに関係してくるのが特許だ。議論はおそらく紛糾するだろう。
さて、どうなるかは出たとこ勝負というところだ。
私は深い溜息をつきながら冷めた紅茶を一口啜った。
会議場には西大陸の大国を中心に二十か国以上の各国の要人や集まった。
私は末席でリアンは会議の中心に座る宮廷財務長官の後ろに座っていた。
議論は一方的な展開を見せた。各国から特許廃止論の声が上がったのである。
経済や貿易を阻むためというのが多くの理由であった。様々な言語で議論が飛び交う。
休憩の間に、私は紙にペンを走らせた。
そして、従僕を呼び、紙をリアンへと届けるように伝えた。
私は会場に戻ったリアンが従僕から紙を渡されるところを後方から見ていた。
リアンはそれを怪訝そうに受け取ると、読み進めるうちに目を見開いた。
それから宮廷財務長官にリアンは耳打ちした。
その意見を聞き、宮廷財務長官は軽く頷き、議論が収まるのを待った。
「我が国は特許に関していくつかの提案をしたいと思います。
一つに、発明について正当に特許を与えること。二つ、専門家による審査の重要性です」
「フローレンス王国は特許の撤廃に反対だというのかね?」
「各国の未来の発展と貿易のために、国際的な特許制度が必要だと考えるからです。今は未発達ですが、やがて東大陸も台頭してくるでしょう。各国の展示品を見れば、それぞれが素晴らしい技術をお持ちだということがわかります。我々は競争し、共存し、共栄していかねばなりません」
会議場は騒然となった。あちこちで今の発言について議論が交わされている。
だが、特許撤廃一色だった議場に一石投じることができた。
議論は翌日に持ち越されることになった。
席を立とうとするとリアンが私に話しかけてきた。
「クラキ君、先程の意見はなんだったのかな?」
「リアン先輩。余計なことを申し上げました。分を弁えず、申し訳ございません」
「それは構わない。
それより、何故特許を撤廃しようとしている議論に反論しようと思ったんだい?」
「私の元いた世界でも特許の制度はありました。それに倣っただけです」
「東大陸が伸びてくるとはどうして?」
「東大陸には独自の技術と豊富な魔法エネルギー資源があります。
やがて情勢は変わってきます……私の意見をあっさり宮廷財務長官にお伝えしたのは、リアン先輩も同じお考えだったのでは?」
「実は私もそういった側面があると思っていたよ。だけど、進言するか悩んでいた。
君の一言で決心がついたんだ『今こそフローレンス王国が西大陸をリードすべきだ』とね」
「出過ぎたことを申し上げて、すみませんでした」
「それでは、助言感謝する」
「あの……リアン先輩。もしも少しでもお力になれたのでしたら、私に力を貸して頂けませんか?」
私は意を決してリアンを引き留めた。冷徹なリアンの瞳が私を見据える。
「……と、いうと?」
「私は国賓の奥さまやお嬢様たちに国際博覧会の案内をするよう頼まれていますが、何分こちらの文化には疎くて……リアン先輩に教えていただきたいのです」
これは本当だ。
多言語を操ることができる私は、ガイド役を任されていたが知識面で不安を抱えていた。
リアンはその点パビリオンの造詣も深いだろう。
「……私も国際会議の後、国賓の皆さんをフェアリーライトパレスにお連れすることになっているよ。下見ということであれば、半日ほど時間が取れないこともない」
リアンは手帳を開き、予定を確認した。その口調はあくまで事務的であった。
それでも、承諾が得られたことで私は喜びの声を上げた。
「本当ですか?」
「ああ、それでは日程は追って連絡するよ。それでは失礼」
リアンは書類を抱えて踵を返した。私はその後ろ姿を見つめたが、振り返ることは無かった。
私は早速デヴィンに国際博覧会をリアンとともに回る約束が出来たと手紙を書いた。
それからデヴィンは時間があるときに、外で会おうと返事をしてきた。
私たちはあの懐かしいレストランでランチをとることになった。
ファンゲスというキノコと西洋ねぎのスープを頂く。
あの日と変わらず、レストランのランチはとても美味しかった。
「それで、どうやってリアン先輩の心を取り戻す算段なんですか?」
「算段なんて大それたものじゃないけれど……」
私は困った様に笑った。その試みは本当に些細な計画で成功する自信がなかった。
「どうするんですか?」
「それはね……」
お読みいただきありがとうございます。
リアン編に突入いたします。
果たしてマヤのもくろみは成功するのか?
どうぞよろしくお願いいたします。




