第三章 国際博覧会と恋の行方~開会式と賢者の石~
いよいよ国際博覧会の開催日がやってきた。
夕刻、華々しいファンファーレの中、王族たちは現れた。
開催式のセレモニーには王とともにアッシャーとライアンが出席した。
王冠を被った王は壇上に立ち、国賓たちへの謝辞とこの美しいフェアリーライトパレスの建設や開催に貢献した国民たちを労い、最後にこう述べた。
「生涯の中で最も幸せで、最も誇り高い日だ」
セレモニーはスムーズに進んでいった。とうとう私の出番がやって来た。
「日も落ちて少々暗くなってまいりました。
それでは我が国が誇る大魔術師マヤ・クラキ様にご登場いただきましょう」
私は銀糸で刺繍された白いレースのドレスで壇上に上がり、一礼した。
会場内のランプが消され、壇上の私だけが照らされる。
私はセレモニーホールの天井にあるシャンデリアに向かって杖を一振りした。
するとシャンデリアには七色の揺らめく炎が立ち上り、それは壁にあるランプにも伝播していった。
薄暗かったフェアリーライトパレスに次々と光が灯る。
わぁと歓声が波のようにパレスに満ちていく。
その光を受けた私のドレスにつけられたスパンコールもキラキラと反射して七色に輝く。
私はまた軽く一礼すると、拍手が上がった。
「はぁ、今日一番のお役目は何とか果たしたわね、オーベロン」
「ボクが魔法を教えたとはいえ、見事な出来だったよ。マヤ」
妖精の炎は消えないし、火事になる危険も無い。
私が灯した炎は展示品を明るく、鮮やかに照らしていた。
セレモニーが終わって王族たちは退場した。
王が私の前を通る時、オーベロンが小さく驚きの声を上げた。
「どうしたの?」
「王冠についている赤い石、見える?」
私は叩頭しながらもちらりと王の頭上に目をやった。
「あの大きな石?」
「違う、その上の小さな緋色の石だよ」
「あれね。一体あれがどうしたの?」
「賢者の石だ」
「賢者の石ってあの有名な?」
「石を金に変え、比類なき魔力と不老不死の力を与えると言われている……でも、あの大きさじゃ一人分しかなさそうだね」
「そんな秘宝がこの国にあったなんて。知らなかったわ」
「ただの人間が見ても普通の宝石にしか見えないだろうね。まだ人間界にあったとは驚いたな」
王族が退場しても、国賓たちはセレモニーホールにまだ残って歓談している。
私の名前は近隣の国には名が通っているようで、しかも多少誇張されていたため、話を聞きたがる客人たちに取り囲まれてしまった。私はにこやかに丁重にあしらいながら、リアンの様子を探った。
先日のデヴィンとの会話を思い出す。
「これから一体どうしたらいいかしら?デヴィンは魔法をかけられた相手に心当たりはある?」
「……すみません。何か月も前の舞踏会で誰と踊ったかなんてもう忘れてしまいました。
犯人を捜すのは難しそうですね」
しょんぼりとデヴィンが肩を落とした。
「そうなると解除条件である『四人の心を取り戻す』方が現実的ね。デヴィンには何とか接触することが出来たけど、他は難しいわね」
「僕はまずリアン先輩が先決かと思います」
デヴィンがすっと視線を上げて、断じた。私は少し首を傾げながら聞いた。
「それはどうして?」
「軍にいるエヴァン先輩や王宮の奥にいるライアン王子とは接触が難しいですから。それに比べればリアン先輩でしたら接触できると思うんです」
「確かに。それにもうすぐ国際博覧会に併せて国際会議が開始されるわ。私もリアン先輩も出席する予定よ。なんとか、そこでリアン先輩に接触してみる」
「そうですね……でも、無理はしないでください。相手はもしかしたらマヤさんの命を狙っている可能性もありますから」
命を狙っているかもしれないと言われて内心驚いた。
確かにこれだけ大掛かりな魔法を使える存在だ。そのくらいのことをしてもおかしくない。
「そうね。デヴィンの魔法が解けたのもあちらにはわかっているだろうし、慎重に進めるわ。
ありがとう、デヴィン」
たった一人でも応援してくれる存在がいるということは、ここ数か月の孤独を癒してくれた。
私はデヴィンに心から感謝こめて笑顔を浮かべた。
語学も堪能なリアンも各国の要人に囲まれながら歓談している。
デヴィンの呪いが解けたのでみんなの呪いも解けたのではないかと淡い期待の元こっそりと好感度を確認してみたが、やはり黒い小さなハートだった。
(なんとしても、国際会議を成功させなければ)
私は決意も新たに要人たちが名残惜しそうに馬車に乗るのを見送った。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークありがとうございます!
嬉しいとつい更新してしまいます。
更新ペース速過ぎるとか遅いとかありましたら、ご連絡ください。




