第八章 ウィンターベル~エヴァン~
あなたとダンスを
私は少し疲れて壁際の席に座り、サンドイッチへ手を伸ばそうとした。
エヴァンが私の前に立ちはだかっていた。
「エヴァン君!来てたの?こういう催し物興味ないかと思ってた」
エヴァンはその恵まれた体躯を活かした仕立てのいいジャケットを羽織り、中に灰色のベストとネクタイを締めている。
長身であるにもかかわらず、顔は小さめで彫りが深く野趣味のある顔立ちに周りの女子たちが色めき立っている。
(ああ、エヴァン君、いつも道場にいて女子との接触が少ないけど、やっぱりみんなから見てもカッコいいんだな)
エヴァンは無言ですっと腕を差し出した。
えっと私が動揺していると、エヴァンは少し悲しそうな顔をした。耳が少し垂れている。
「俺と踊るのは嫌か?」
「ううん、ぜひお願いします!」
もう既にじろじろ見られるのにもいい加減慣れてきた。
私はがっしりとしたエヴァンの肩に手を回した。大きな掌が背中に当てられる。
「緊張しているのか?」
「何分、初めての舞踏会で。ダンスも付け焼刃だから・・・・・・エヴァン君はリード上手だね」
「……れほどでもない。武人でも社交界に出入りすることもあるからな」
「そっか。ねえ、こんなに寒かったらあの湖も凍ってるのかな?」
「冬は凍る。森も白く染まって綺麗だ」
「そうなんだ。また、見に行きたいね」
「そうだな、お前とだったら行くのもいい」
その時隣のペアとぶつかって私はバランスを崩した。
それを咄嗟にエヴァンが引き寄せ、その胸に抱かれる構図になった。
厚い胸板に抱かれ、私は真っ赤になった。
「危なかった。大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ」
「こんな華奢な身体で戦ってたんだな」
「え?そんなことないよ。メイスだって扱えるし」
「いや、お前はもう武器を持たないで良い……俺がどんなものからも守る」
曲が終焉を迎えると、そっと二人は距離を取った。
その数歩の距離がとても遠く感じる。
「それでは良い夜を」
「良い夜を」
お読みいただきありがとうございました。
エヴァン編です。
次回から終盤です




