第八章 ウィンターベル~リアン~
また壁際に戻り、オードブルを物色していると声をかけられた。
「やあ、マヤ君」
「リアン先輩!参加してたんですね」
リアンは長身痩躯が際立つスタイリッシュな丈の長い燕尾服を着ていた。
銀縁眼鏡も相まって知的な大人の男性の色気があった。
「ダンスは趣味ではないんだけどね、どうしても踊りたい相手がいたから」
「それって……」
「よろしければお手をどうぞ、レディ」
差し出された腕を取ると壁際からひそひそ声が聞こえてきた。
(やっぱり、院生であっても人気があるんだな、リアン先輩)
リアンの細い指と私の指が絡み合う。
「もうウィンターベルの季節か。こんな凍えた夜は冴えた星々の輝きが見えるんだろうな」
「冬の夜空って綺麗ですものね。
そういえばリアン先輩はあの日見た流星に何をお願いしたんですか?
私はこの王国の危機を救えますようにって願いました」
「それは……言えないな。この国では願い事を人に知られると叶わないと言われているんだ」
「ずるい。それ、今作りませんでしたか?」
ふふっとリアンが微笑む。
怜悧な美貌のリアンが微笑むと冬に咲く花を見たような気持になる。
「真実ばかり探求してきたけれど、時には嘘の方が真実を示していることもあると学んだよ。
君と過ごしてから」
「どういうことですか?」
「人は臆病になるということさ。君にはたくさんのことを教わった。ありがとう」
絡み合った手が離れていく。
グローブ越しの温もりが失われていく。
曲の終了と共に、二人は手を離す。
「それでは良い夜を」
「良い夜を」
お読みいただきありがとうございます。
ダンス編をどうぞお楽しみください。
エヴァン編はお待ちください。




