第四章 個人イベント発生~デヴィン~
悩める後輩
さらにひと月経とうとしていたある日、期末試験も目前に迫って来た。
試験対策は万全だ。
ステータスも知力体力問題はない。
しかし、シャーロットたちはそうはいかない。
この時期ばかりはそれぞれ机に向かって、勉学に精を出している。
そういうことで社交術の訓練はいったんお休みになった。
一応軽い復習をした私は気分転換に庭園へ散歩にやって来た。
どこからか呻き声が聞こえた。それは叫び声に変わった。
「あー!ドミニク語なんてわかるかぁ!」
庭園の東屋でテーブルを叩いていたのはデヴィンだった。
私はそろそろと東屋の様子を窺う。
テーブルの上には辞書と教科書と紙が散乱していた。
私は一瞬躊躇った後、デヴィンに声をかけた。
「デヴィン君、こんにちは。テスト勉強しているの?」
「ク、クラキ先輩。ええ、ちょっと気分転換に外で勉強していたんです」
デヴィンは狼狽しながらテーブルの上を整理し始めた。
「あの、今、ちょっと聞こえちゃったんだけど、ドミニク語の勉強してたの?差し出がましいけど、多分私、わかると思うよ」
「え!?だってクラキ先輩、ドミニク語の授業受けてないじゃないですか?」
「この世界に来た時から大体の言語は話せるようになったし、一年目に文法と文字を習ったから単位はもう貰っているの」
「一年でこの難解なドミニク語を。流石ですね……」
「どこがわからないか、教えてくれる?」
デヴィンは渋々といった表情で詩の一小節を示した。
「ああ、これはね
『諸君、大いに楽しもうではないか。私たちが若いうちに。素晴らしい青春が過ぎた後、苦難に満ちた老後の過ぎた後、私たちはこの大地に帰するのだから!』
学生歌ね。現実主義と快楽主義の意思も見受けられるわ」
「何故、こんな文法になるんですか?」
「ドミニク語は韻律を守るために語順が変わることが多々あるからよ」
なるほどとデヴィンは納得したように教科書に書き込んだ。
それからいくつかの例文の翻訳を解説するとデヴィンの表情に明るさが戻って来た。
「ありがとうございます。後は一人でやってみたいと思います」
「わかった、それじゃあ頑張ってね」
私は去り際きっちり好感度を確認した。
ハートが水色になっていた。
「これってイベント成功ってことだよね、パック?」
「そうだね、マヤ。確実に上げていこう」




