第四章 個人イベント発生~エヴァン~
(召喚が一発で出来てしまったから時間が空いちゃったな)
シャーロットや多くの生徒は召喚術が出来ないので、この時間は別のカリキュラムを取っていることが多い。
渡り廊下をあるいていると腕の中にはサフィラのさらさらとした毛並みがもごもごと動き出した。
「どうしたの、サフィラ?」
サフィラを解き放つと、森の中へと入っていってしまった。
私は慌てて追いかけた。
肩の横でパックが呆れた声を出す。
「いいじゃん、マヤ。あんな毛玉なんて放っておいても。
使役しているんだから、呼べば戻ってくるし」
「サフィラは一応魔獣なんだから、何かあってからじゃ遅いでしょう」
学園の裏庭にある森の中を探してみた。すると、キラキラオーラの気配がした。
(四人のうち誰かがいる)
私は木陰に隠れながら恐る恐るその方向を見る。そこにいたのは赤髪に狼耳のエヴァンだった。
こちらに背を向けたエヴァンは腰に大太刀を肩から担ぎ、何か呟いている。
「おいで、怖くないから。干し肉食うか?」
エヴァンはしゃがみ込み、サフィラに干し肉を差し出していた。
どうしたらいいのかと悩んでいる私はつい足元の落ち葉を踏んで音を立ててしまった。
その微かな音をエヴァンの鋭敏な聴覚は聞き逃さなかった。
「誰だ?!」
私は意を決して大樹の陰から姿を現した。
「お前は、クラキか。一体何の用だ?
武術を始めて一年のお前に負けたオレを笑いにでも来たのか?」
先程までの優し気な口調からガラリと変わった不愛想な態度だった。
私は勇気を出してエヴァンに尋ねる。
「そんなこと、思ってないよ!あの……今、サフィラに餌あげようとしてたの?」
「やってない。これはオレの非常食だ。こいつはお前のペットか?」
エヴァンはむしゃと干し肉を食いちぎった。
「召喚術で呼び出した魔獣なの。サフィラおいで」
サフィラが私の胸に飛び込んでくる。
「エヴァン君、よかったら撫でてみない?」
私は遠慮がちにエヴァンにサフィラを差し出した。
サフィラはつぶらな瞳でエヴァンを見つめている。
エヴァンは尻尾をピンと立て、何かに引き寄せられるようにそっとサフィラに手を伸ばそうとした。しかし、その手は途中でピタリと止まった。
「自分は興味などない。鍛錬の途中だ。向こうへ行け」
エヴァンは私に背を向けて大太刀を肩から引き抜き、素振りを始めた。
私はしょんぼりとその場を去ることしかできなかった。




