第六章 回想~第一王子~
イーサン・テイラーを牢から出し、アッシャー付きの魔術師とイーサンの力を合わせて、マヤ・クラキに対抗し得る異世界の魔法使いを召喚した。魔法陣に現れたのはボロを着た薄汚れた小柄な少女だった。少女がおそるおそる面を上げると美しいバラ色の髪と菫色の瞳が露わになった。アッシャーはその瞳を見た瞬間、頭を殴られたような衝撃が走った。
「異邦人よ、名を何という?」
「わたくしの名前はレイラ……それだけです。ここはどこです?あなた方は異端審問官ではないの?」
「僕はアッシャー・マーティン。このフローレンス王国の王子です。貴方の力をお借りしたく、異世界より召喚しました」
「わたくしを?わかりませんわ……どのようなことがお望みで?」
「僕に王位を。今、僕は第二王子に王位継承を脅かされています。そして、貴方を王妃に迎えたい」
「わたくしを王妃に……?こんなおかしな髪をした醜い老婆のわたくしをからかっていらっしゃいますの?」
「そんなことはありません!貴方は誰よりも美しい。僕は一目で貴方に心奪われました。どうかこの世界にいつまでも留まって下さい」
「ではわたくしに相応しい地位とその為に更なる力を与えてくださいますか?」
アッシャーは頷いた。
「王家には代々伝わる賢者の石がある……貴方が望むのならば王位に就いた暁にはそれを捧げましょう。そして、この国にはやはり異邦人の魔術師がいます。その役職を貴方に」
「わかりました。それではわたくしは第二王子の廃嫡を約束しましょう」
レイラが答えると魔法陣が輝き、結界が解けた。アッシャーはその垢にまみれた手を取って、くちづけした。
「これで僕と貴方は運命共同体です。これから一年と一か月と一日、貴方は今からレイラ・ジラール。異国の姫君としてお過ごし頂きます」
レイラは賢い女性だった。ほとんど教育を受けていないと言ったが、僅か一か月で令嬢として恥ずかしくない作法を身に付けていった。風呂に入り、髪を整え、ドレスを着るとまるでレイラは羽化した蝶の様に初々しい美しさがあった。
「今夜のニューイヤーパーティーで貴方を紹介します。貴方はまずマヤ・クラキに接触し、元の世界に戻る呪いをかけ、続いてダンスをしてもらいます。ライアンには魅惑の魔法、リアン・クラーク、エヴァン・ガルシア、デヴィン・ハートウィックには彼女への愛を封印する魔法を」
「わかりましたわ、アッシャー様」
「我々に幸運を」
「幸運を」
レイラは首尾よく上手く事を運んだ。
ライアンはあっという間にレイラに夢中になり、マヤは国際博覧会と魔法の解除で我々の目的から目を逸らせた。
しかし、マヤはしぶとく一人、また一人と魔法を解いていった。
三人目のエヴァンの魔法が解けた時、より積極的な手を打つことにした。その一つがハントの際にライアンの猟犬による王の暗殺だった。
しかし、またしてもマヤがそれを阻止してしまった。それでも、レイラはこの事態を予期していた。
「マヤ様の姿を変え、魔力と記憶を奪い、どこかの農村に隠してしまいましょう。あと三週間稼げればこちらに勝機はありますわ」
レイラの言う通りに荒れた屋敷に連れ込み、マヤからすべてを奪った。それでもマヤは最後の策であった王の毒殺すらも王の命とライアンを守ってみせた。
(最後の瞬間までレイラと共に在りたい……)
アッシャーはもう王位も命も要らなかった。ただレイラがいればそれで良かった。
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また後程お会いしましょう。




