第五章 魔女の呪い~紅の薔薇~
変化は劇的だった。私の背中から大きな紫の蝶が蛹から羽化するように抜け出した。すると白かった髪は光沢のある黒髪へと変わり、皺だらけの皮膚から白い絹のような肌へと戻っていく。老婆はあっという間に若々しい女性へと変化した。
「目覚めよ、マヤ」
そこには金色の燐光を纏った緑の髪をなびかせ、赤い瞳をした妖精王の姿があった。
「……ん?あれ、オーベロン?私は、マヤ!記憶も姿も魔力も戻ってる!」
私は自分の身体に満ちる魔力と体力、そして膨大な知識と記憶が戻ってくるのを感じた。
「マヤ殿、意識が戻ったか!」
ライアンに私は強く抱きしめられる。
「ライアン様!元に戻ったのですか?」
「ああ、すまないことをした。マヤ殿」
ライアンの碧眼に私の姿が映る。その姿は老婆ではなかった。しかし、見つめ合っている場合ではなかった。
「オーベロン、お願い、国王陛下をお助けして」
「無論、既に国王には治癒を施した」
その声と同時に、国王が目を覚ました。
「一体これはどういうことだ?」
私は王の前に跪いて進言した。
「王よ、御前に失礼します。この度の事件は全てアッシャー王子とレイラ・ジラールによる犯行です」
「そんな、何の証拠があってそんな世迷い言を!」
アッシャーが声を張り上げる。
「私はレイラ・ジラールとアッシャー王子によって姿を変えられ、その上記憶と魔力を奪われて農村に幽閉されておりました。その証人として世話役の女を警察に引き渡してあります」
「そんなものいくらでも捏造できる!」
「では、彼の証言はどうかな?」
リアンとデヴィンがやつれたイーサン・テイラーを連行してきた。
「お前はイーサン・テイラー。大罪人で無期懲役のお前が何故ここに?」
「先日、王宮の地下を捜索していた際に発見しました。彼はアッシャー王子に命じられて、レイラ・ジラールを召喚したと述べています」
「それは真か?」
「王よ、私は間違っていました。魔力や召喚能力を過信して、力で国を変えようと思っていました。しかし、この一年間、言葉を封じられながらも、クラキが国際博覧会を開催してこの国と大陸を変えていくのを見ていました。力によって心を操られる者たちは哀れです。それが魔力によっても、権力によっても、暴力によっても変わりません。マヤ・クラキの言葉は真実です。私はアッシャー王子に命じられレイラ・ジラールをこの世界に召喚しました」
アッシャーとレイラは真っ青になり二人は縋るように硬く抱き合っていた。
「アッシャーよ、何か申し開きすることはあるか?」
「……」
黙り込むアッシャーから離れて、レイラは手を広げ大時計を示した。時は十時をさしている。
「まだ時間は残っていますわ。最後に百花の魔女たるわたくしの最大魔法をお目にかけましょう」
レイラは時計に向かって祈るように両膝を折った。
「童は見たり、野の薔薇を。美しく咲くその色を愛でて。飽くことなく眺めて。紅のその薔薇を」
その言葉と共に王宮の薔薇園が燃え始めた。真っ赤な薔薇が咲き誇るように。
「火事だ!逃げろ!」
「消火を急げ!」
大勢の招待客が逃げ惑う中、アッシャーとレイラは手を取り合って燃え盛る庭園へと走った。レイラの小さな手を握りしめて、アッシャーは思い起こす。レイラを召喚したあの日のことを。
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マヤも元の姿に戻り、呪いも解けました。
第二部の最後まで見守って下さい。




