2.5 彼女の運転・おっさんの災難
時系列がおかいしいですが、閑話として読んで頂けたらと。
※おことわり
一部、水害を想起させる可能性のある表現がありますが、初回投稿時の直近では水害はありませんでしたのでご了承のほどよろしくお願い致します。
「あっ……」
小さく声が漏れます。
別なものもちょっとだけ漏れた気がするのですが気のせいだと思いたいです。
そう、僕は今…チョぼパン状態なのです。チョぼパンとは……超膀胱パンパン……の事なのですが、そんなことはどうでもいいのです。大事なのは今、僕の膀胱が警戒水位をとうに超え、貯水のキャパを超えようとしている事です。
実はちょっと前からトイレに行きたかったのです。運転交代のタイミングで受験者に断りを入れてトイレに行けばよかったのかも知れません。しかし、小心者の僕は言いだせなかった。
それと、次が最後の受験者だから「まだ保つな」と思ってしまったのも誤算でした。
つい「それじゃあ次は野々原くるみさんだね。運転席へどうぞ」と、交代を促してしまいました。
これは、本当に誤算でした。彼女の運転は練習の時に1度か2度は担当したことがあるはずですが、運転のセンスは悪くなく、いや、寧ろ良かったと記憶してますから。
典型的な本番に弱い…プレッシャーに弱いタイプなのでしょうか?
教習原簿の修了検定の欄にはもう3つほど押印がしてあって、これまたその横には『否』と言う黒いハンコが押してあります。試験を担当するこちらもプレッシャーです。
しかしながらヤバイです。ただでさえ警戒水位を超えているのに車両の揺れが僕の膀胱を刺激します。タプンタプンと揺れに合わせて溢れそうです。ガタガタとクルマが揺れる度に助手席のドアの取っ手を握った手にもぎゅーーと力が入ります。揺れる度にヤバイです。もうヤバイとしか言えないくらい語彙力が低下しています。
正直、最早採点どころではありません。
S字でクルマの動きが完全に止まりました。万事休すです。
S字に時間制限はありませんが、僕の膀胱の制限がヤバイです。
彼女は何度かやり直しを試みましたが一向に改善しません。それどころかハンドルをどっちに動かすのかわからなくなって思考が停止しているようです。
僕の方も、堤防の淵を表面張力でギリギリ決壊せずに保っているダムのような状態に、下半身の感覚がなくなってきて何も考えられません。二人で思考停止です。
ああ、いっそもう股間の堪えている筋肉の力を緩めて楽になろうか…と、過ぎりましたが、それではいろいろと終わってしまいます。
そんな、絶望的な空気を破ったのは
「頑張れ!頑張れ!まっすぐバック一択だ!」の声でした。
微か過ぎて、頭が真っ白になってる野々原さんに聞こえているのか疑問です。聞こえていても幻聴と思っているかも知れません。
そこで僕は「大仏さん。黙って乗っててくれるかな?」と、逆に彼の言葉を強調しました。
野々原さんは後ろに向かって小さく頷いて動き出してくれました。ナイスです少年。その後の野々原さんは、練習の時のようなスムーズさを取り戻し無事ゴールに戻ってきました。どうやら僕の尊厳は保たれたようです。
実は少年もS字でタイヤを擦ってるんだけど気が付いてないだろ?
あの減点はなかったことにしておいてあげるからね。
自動車教習所のスタッフの皆さま、こんな試験の仕方はないものと信じておりますが、これはフィクションですのでお許し下さい。




