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 二月十四日。

 学校では誰もが最もそわそわする日。そう、バレンタインデー。

 今までは無縁だった僕も、今回ばかりは落ち着きがない。

 なんせ、今日は聖良(せいら)さんが告白するのだ。

 僕の頭の中では、絶対に成功してほしいと思う反面、なんだかモヤモヤする気持ちもあり、矛盾した考えが渦巻いている。

 ダメだ、邪念は捨てよう。別に、座禅してるわけじゃないけど。


 今日は日曜日。しかしながら、ウチの学校の生徒は部活に勤しんでいる。ウチは強制的に部活動に入らなければいけないので、藍斗も、聖良さんも、僕も学校にいる。多分、学校の敷地内のどこかに藍斗を呼び出して、そこで告白するだろう。


 そう考えていると、『告白する』と考えると、やっぱりモヤモヤする。そりゃ、憧れの人が告白するってなったらモヤモヤするけども。


「……ああ、もうっ!」


 僕は転がってきた野球ボールを全力で投げた。少しも気持ちは晴れなかった。


「おおっ、ナイスピー!君、良い肩してるね!野球しない?」


「結構です!」


 僕は、そのまま、モヤモヤしたまま放課後を迎えた。

 結果を報告したいから、待っていてほしいとのことで、僕は教室の自分の席に座っている。周りにはもう誰もおらず、空はだんだんと暗くなってきている。

 ちなみに、場所もおしえてもらったが、知ってどうするんだ……という感じだ。

 ちなみにちなみに、場所は北校舎の三階の教室。聖良さんが所属する組の教室だ。僕がいるのは南校舎三階で、位置的には直線上にある。そのため、ぴったり見えるのだ。

 そのせいで聖良さんがあたふたしているのが見えて、心配でしょうがなかった。


「はぁ……大丈夫かな、聖良さん……」


 僕は、胸のモヤモヤを抱えながらいく末を見守ることにした。




「はあ〜ドキドキする……」


 私は、胸の前で『佐山君と』作ったチョコを抱き抱えながら、麗乃君が来るのを待っている。

 ……でも、佐山君という固有名詞が出てくると、こう、胸のあたりがキュッとする。これは、また相談してみないと。


 蹲って顔を伏せていると、こつ、こつ、と廊下を歩く音が聞こえてきた。

 だんだんと足音が大きくなるにつれて、胸の拍動は強くなり、不安と違和感が私を染め上げる。

 なんだろう。本当に、なんなんだろう。


「えーっと……あ、いたいた。聖良さん!」


「ひゃいっ!」


 き、来た。来てしまった。


「あ、えと……」


 本人を見ると、言葉が出てこなくなってきてしまう。ただ、さっきのようなドキドキは全くない。あるのは、困惑だけ。


「で、どうしたのかな?」


 麗乃君が優しく聞いてきた。どう、したんだろう。この後、どうするんだっけ?『佐山君と』考えた作戦は……


 その瞬間、再び胸がキュッとした。


 本当に、なに?


「え、えっとね……」




 気がつくと、僕はずっと聖良さんの方を見ていた。

いつから、だろうか。


 気がついてからも、見ていた。


 やがて藍斗がやってきた。


 すると、モヤモヤが募った。


 イライラが昂った。


 焦燥が僕を支配した。

 

暮れる夕日に照らされる彼女をみて、今度は心臓が跳ねた。


 今度は、聖良さんがこっちに気づいた。


 夕日で、顔がはっきり見えた。


 ぼくは、見惚れた。


 そして、気づいた。



 「憧れ」から、「好き」に変わっていたのだと。



 それに気づいた瞬間、僕は走り出していた。




 私は焦っていた。


 正体不明の感情に身体が乗っ取られた。


 彼の方を向けなかった。


 背中にチョコを隠したまま、渡せなかった。


 言の葉を紡げなかった。


 私は解決したかった。


 私に起こる不可解な全てを紐解きたかった。


 私はふと、外を見た。何故かは分からなかった。


 そこには、『彼』がいた。


 その姿を見て、全て解決した。紐解けた。


 私は、ここにいる彼じゃなくて、向こうにいる『彼』に惹かれていたのだ。


 いつからだろう。惹かれて、いたのだ。



 そう気づいた瞬間、走り出していた。




 階段を降りて、廊下を走る。渡り廊下に差し掛かった。向こうからも、誰かが走ってくるのが見えた。


 そうして、足を止めた。


 叫んだ。


「「今!やっと気づいた!」」


 視線があった。


「「チョコレートを‼︎‼︎」」


 息を大きく吸った。


「僕にくれませんか!」「受け取ってくれませんか!」


 こうして、高校一年の終わりかけの冬に、春が始まった。


 甘酸っぱい恋の始まりだった。


 それは––––いつか、僕らのバレンタインに。

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