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一月三十一日。今日も今日とて、僕こと佐山 敬也の下駄箱には手紙が入っていた。
「はぁ……またか」
はいそこ、ラブレターかよとか思った人挙手。言っとくけど、違うから。
高校に入って少し経ってから、下駄箱によく手紙が入れられるようになった。内容は、こんな感じ。
『最近彼女が冷たい。どうしたらいいか分からないから相談に乗ってくれ』
『憧れの先輩がほかの女子生徒と仲良くしていたのをみて、どうしたらいいか分からなくなった。相談に乗って欲しい』
『友達と喧嘩して、どんなふうに接したらいいか分からない。相談に乗って欲しい』
エトセトラエトセトラ…………
ああそうだね、全部ラブレターが良かったよ。
ということで、今日も今日とて相談に乗らなければいけないのだ。
さて、今日は何年何組の誰さんからの依頼なんですかね〜〜?
「…………えっ⁉︎」
…………お相手さんの名前は、聖良 唯さんだった。
––––聖良 唯。
百人の男女とすれ違えば一万人が振り向くような容姿を持った美少女。男女問わず校内全員の憧れの的。僕だって例に漏れず彼女に憧れている。
彼女は相手が誰であろうと分け隔てなく接し、いつも明るく振る舞っている。少し活発で、誰にでも優しく柔らかい口調で話し、いつもニコニコして周りに幸せを振りまく。そんな天使のような人だ。
で、そんな天使様がどんな相談をするんだろうか。
『相談内容については誰にも聞かれたく無いから、放課後に校内のどこか人気のないところでつたえます』
そう、可愛らしく綺麗な字で書いてあった。
まあ本人がそういうなら、いいか。
場所は書いてないけど、今日どこかのタイミングで教えてもらえるだろう。
「よう、敬也」
手紙をしまって歩き出そうとしたところで、後ろから声をかけられた。
「おはよう、藍斗」
彼の名前は麗乃 藍斗。
簡単に言ってしまえば、男版聖良さん。うん、これだけで十分伝わる。
サッカー部所属で一年生ストライカー。誰も傷つけないような物言いをし、爽やかな笑顔を振りまく。そして、なぜか僕と仲良くしてくれる。いわゆる親友ってやつだ。
「なんだ、また相談か」
そう苦笑しながら、彼は僕右側に並んだ。
「敬也も大変ねえ」
今度は、左から声をかけられた。
こいつは宮陽 愛華。彼女とは小学校の時からの友人で、普通の美人だ。聖良さんがいるから陰ってしまっているけど、百人とすれ違えば二百人くらいは振り向くだろうってかんじだ。
「そう思うなら分業しようか」
「別にいいけど、あんたに頼んだ子が私と相談したところで何にも解決しないわよ。みんなあんたに聞いてほしくて相談持ちかけてるんだから」
ぐう、そう言われればそうかもしれない……
「でも、僕何にもしてないよ?ていうか、相談中にほぼことばを発して無いんだけど」
「そういうところが大事なの」
それから、僕らは三人であーだこーだと駄弁りながら教室へと向かった。
私こと聖良 唯は迷っていた。
今密かに話題になっている、佐山 敬也君に相談を持ちかけるかを。
いま私が抱えている悩みは、できることなら自分で解決したいこと。でも、彼に相談し、頼みごとをしなければ解決しないことも知っている。
背に腹は変えられない––––そう思い、私は朝早くに登校し、彼の下駄箱に手紙を投入した。
放課後。寒い中、僕は暖房の効いた図書室の誰にも目につかないような奥の奥、本棚で死角になっている場所にある椅子に座っていた。
あの後、僕らは教室で別れ、各々の教室へと入っていった。もちろん僕も自分の教室に入ったんだけど…………
そこには、僕の席には、聖良さんが座っていた。
「…………あの…………聖良さん……」
うおあああああああああああ‼︎話しかけてしまったああああああ‼︎‼︎
と、頭の中で叫んでいると。
「あ、おはよう。佐山君だよね?はじめまして‼︎」
「は、はじめまして」
「えっと、場所を伝えにきたんだけど……」
「あっっああ!場所ね、場所!」
聖良さんは、何も言わずにこちらへと近づき、一枚の紙を僕に手渡した。
「そこで、待っててね」
耳元で、そう囁かれた。
もちろん、いつまでも待ちますとも。
そうして、今に至る。
なんだろう、どんな相談なんだろう…………
そう考えていると、ドアが開く音が聞こえてきた。多分、聖良さんだろう。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ぜ、ぜんぜん大丈夫だよ!」
「ありがとう!じゃあ……さっそく本題に入ってもいいかな?」
「う、うん、どうぞ」
「えっと……その、本当にいきなりなんだけど…………」
「私、麗乃 藍斗君のことが好きなの!それで、えと、佐山君は麗乃君と仲がいいでしょ⁉︎だから、その……告白を、手伝って欲しいの‼︎」
そのことばを聞いて、今まで昂っていた気持ちが落ちていくのを感じた。浮かれていたのだ。みんなの憧れの聖良さんに相談してもらえてことで。でも、一気に現実に引き戻された。冷や水を頭からかけられたような気分だった。
でも、僕はこういうしかなかった。
「もちろん、ぼくにできることがあるなら」
「本当⁉︎ありがとう‼︎」
そう言った彼女の表情は、とても明るいものだった。
「でね、私、バレンタインの日に告白しようと思うんだけど……」
「ああ、いいんじゃないかな。じゃあ、渡すものも考えないとね」
「うん!あ、そうだ!学校だと話しづらいし、連絡先、交換しても……いいかな?」
「えっ、あっ、う、うん」
我ながら気持ち悪い返事だ。まあ、しかたないさ。だって、嬉しいんだもの。
僕らはスマホを取り出し、チャットアプリに登録した。
「えへへ、ありがと!じゃあ、もう暗くなってきてるし、いったん家に帰って、続きはこっちでいいかな?」
聖良さんはスマホを指差しながらそう言った。
「うん、大丈夫だよ」
そうして、僕らは自宅に帰った。
家につき、入浴や晩ご飯なdを一通り済ませて自分の部屋でゴロゴロしていると、ぶーっと携帯が震えた。
画面には、ハムスターが正座して『お願いします』と言っているスタンプ。
ここから、相談……もとい、
学校のアイドルによる、『王子様を手に入れたい大作戦』がはじまった。
ちなみに、聖良さん命名。
明後日。