時は流れるままに 97
要も首をひねって考えている。隣で余裕の表情のアイシャを見れば、いつもの要ならすぐにむきになって手が出るところだが、いい案をひねり出そうとして思案にくれている。
「黙ってねえで考えろ」
そう言う要だが案が思いつきそうに無いのはすぐにわかる。
「じゃあ……胡州風に十二単とか水干直垂とか……駄目ですね。わかりました」
闇雲に言ってみてもただアイシャが首を横に振るばかりだった。その余裕の表情が気に入らないのか口元を引きつらせる要。
「もらってうれしいイラストじゃないと。驚いて終わりの一発芸的なものはすべて不可。当たり前の話じゃない」
「白拍子や舞妓さんやおいらん道中も不可ということだな」
要の発想に呆れたような顔をした後にうなづくアイシャ。それを聞くと要はそのままどっかりと部屋の中央に座り込んだ。部屋の天井の木の板を見上げてうなりながら考える要。
「西洋甲冑……くの一……アラビアンナイト……全部駄目だよな」
アイシャを見上げる要。アイシャは無情にも首を横に振る。
「ヒント……出す?」
「いいです」
誠は完全にからかうような調子のアイシャにそう言うと紙と向かい合う。だがこういう時のアイシャは妥協という言葉を知らない。誠はペンを口の周りで動かしながら考え続ける。カウラの性格を踏まえたうえで彼女が喜びそうなシチュエーションのワンカットを考えてみる。基本的に日常とかけ離れたものは呆れて終わりになる。それは誠にもわかった。
「いっそのこと礼服で良いんじゃないですか?東和陸軍の」
やけになった誠の一言にアイシャが肩を叩いた。
「そうね、カウラちゃんの嗜好と反しないアイディア。これで誠ちゃんも一人前よ。堅物のカウラちゃんにぴったりだし。よく見てるじゃないのカウラちゃんのこと」
満面の笑みで誠を見つめるアイシャ。しかしここで突込みが要から入ると思って誠は紙に向かおうとする。
「それで誰が堅物なんだ?」
突然響く第三者の声。アイシャが恐る恐る声の方を振り向くとカウラが表情を殺したような様子で立っていた。
「あれ?来てたの」
「鍵が無いんだ、それに私がいても問題の無い話をしていたんだろ?」
そう言って畳に座っている要の頭に手を載せる。要はカウラの手を振り払うとそのまま一人廊下に飛び出していった。




