時は流れるままに 93
「誠ちゃんは確かに気が弱いわよねえ。野球の練習試合の時だってランナーがでるとすぐ目があっちこっち向いて。守っていてもそれが気になってしかたないもの」
アイシャはまたにんまりと笑って誠を見つめてくる。そんな彼女の視線をうっとおしく感じながら誠は最後に残った芋のてんぷらを口に運ぶ。
「蛮勇で作戦を台無しにする誰かよりはずいぶんと楽だな、指揮する側にすればだがな」
たまらずに繰り出されたカウラの一言。要の笑みがすぐに冷たい好戦的な表情へ切り替わる。
「おい。それは誰のことだ?」
「自分の行動を理解していないのか?さらに致命的だな」
カウラの嘲笑にも近い表情に立ち上がろうとした要の前に薫が手を伸ばした。突然視界をふさがれて驚く要。
「食事中でしょ?静かにしましょうね」
相変わらず笑顔の薫だが、要は明らかにそのすばやい動きに動揺していた。そんなやり取りを傍から眺めていた誠はさすがと母を感心しながらゆっくりとお茶を飲み干した。
「ご馳走様。それじゃあ僕は……」
誠が立ち上がるのを見るとアイシャも手を合わせる。予想していたことだが少しばかりあせる誠。
「ご馳走様です。おいしかったわね。それじゃあ、私も誠ちゃんの部屋に……」
「なんで貴様が行くんだ?」
カウラの言葉にただ黙って笑みを浮かべてアイシャが立ち上がる。その様子を見てそれまで薫の動きに目を向けていた要も思い出したような笑みを浮かべる。
「じゃあアタシもご馳走様で」
「貴様等は何を考えてるんだ?つまらないことなら張り倒すからな」
誠達の行き先が彼の部屋であることを悟ったカウラが見上げてくるのを楽しそうに見つめる要。
「ちょっと時間がねえんだよな、のんびりと説明しているような」
そう言って立ち上がろうとする要を追おうとするカウラを薫が抑えた。
「なにか三人にも考えがあるんじゃないの。待ったほうが良いわよ、誠達が教えてくれるまでは」
カウラは薫の言葉に仕方がないというように腰掛けて誠達を見送った。
「なあ、悟られてるんじゃねえのか?」
階段を先頭で歩いていた要が振り向く。
「そんなの決まってるじゃないの。誠ちゃんが画材を買ったことはカウラちゃんも知ってるのよ。問題はその絵のインパクトよ」
そう言ってアイシャは誠の肩を叩いた。




