時は流れるままに 92
「本当においしいわね。アナゴがふかふかで……」
満足そうに茶碗を置くアイシャ。隣ではすでに食べ終えた要が茶をすすっている。
「でもよく食べたな」
誠並みに五本もえびを食べたカウラを要が冷やかすような視線で眺めている。そう言われてもわざわざニヤニヤ笑って喧嘩を買う準備中の要を無視して湯飲みに手を伸ばすカウラ。
「そう言えば父さんは明日から合宿でしたっけ」
そんな誠の言葉に誠一は大きくうなづいた。要もカウラもアイシャも誠一に目をやった。親子といえばなんとなく目も鼻も眉も口も似ているようにも見える。だがそれらの配置が微妙に違う。それに気づけば誠のどちらかといえば臆病な性格が見て取れる。そして誠一はまるで正反対の強気な性格なのだろうと予想がついた。
「まあな。正月明けまでは稽古三昧だ……どうする?誠も来るか」
すぐにアイシャと要に殺気にも近いオーラが漂っているのが誠からも見えた。
「全力でお断りします」
二人のの射るような視線に誠はそう言うほか無かった。いつものように薫は笑顔を振りまいている。カウラは薫と誠を見比べた。実に微妙だがこれも親子らしく印象というか存在感が似ていることにカウラは満足して手にした湯飲みから茶をすする。
「今頃は隊は大変だろうな」
カウラの一言にアイシャが大きくため息をつく。
「そんなだから駄目なのよ。ともかく仕事は忘れなさいよ。思い出すのは定時連絡のときだけで十分でしょ?」
そう言って薫から渡された湯飲みに手を伸ばすアイシャ。だがまじめ一本のカウラが呆れたように向かいでため息をついているのには気づかないふりをしていた。
「本当にお世話になって……でも本当に誠が迷惑かけてないかしら?」
そんな母の言葉に黙り込む誠。
「そんなお母様、大丈夫ですよ。誠ちゃんはちゃんと仕事していますから」
「時々浚われたり襲撃されたりするがな」
アイシャのフォローを潰してみせる要。そんな要を見て薫はカウラに目を向ける。カウラはゆっくりと茶をすすって薫を向き直った。
「よくやってくれていると思いますよ。神前曹長の活躍無くして語れないのが我が隊の実情ですから。これまでも何度危機を救われたかわかりません」
にこやかにフォローするカウラ。だが薫はまだ納得していないようだった。
「でも……気が弱いでしょ」
その言葉にすぐに要が噴出した。アイシャも隣で大きくうなづいている。
「笑いすぎですよ。西園寺さん」
誠は少しばかり不機嫌になりながらタレ目で自分を見上げてくる要にそう言った。




