時は流れるままに 91
「どうも!いらっしゃい」
風呂から上がった要が突然背中から声をかけられて驚く。テレビを見ていたカウラがそれを見て笑っている。闖入者は誠の父、神前誠一。珍しく定時に帰ってきた工業高校の剣道部の顧問である父にテレビから目を離してそのいかつい姿を見上げる誠。
「なんだかこんなに女の子がいると……華やかだな」
「そう言うのは本人達を目の前にして言わないほうがいいよ」
誠の言葉よりも早くアイシャが反応していた。そのまま何事も無いように要のところまで行くといつもの要の黒いシャツの前の部分を引っ張って中を覗きこむ。
「はい、ノーブラ」
そう言った所で要の平手がアイシャに飛んだ。
「お前等……」
またテレビから目を離して呆れたような表情を浮かべるカウラ。
突然の出来事。誠には慣れていることだがさすがに父には理解できないらしい。そのまま首をひねり黙って階段を上っていく。
「貴様等なじみすぎだぞ」
「カウラちゃんがよそよそしいのよ。ねえ、要ちゃん!」
「うるせえ!」
要はそう言うと三人が泊まる予定の客間に向かう廊下を歩いていく。
「無愛想ね」
「それ以前の問題だ」
一言そう言ってテレビの野球中継を眺めているカウラ。自分にかまってくれないのが不服なのか、アイシャはしばらく誠を見て手を打つ。そしてじりじりと間合いをつめてくるアイシャに誠は嫌な予感しかしなかった。
「じゃあ誠ちゃん、一緒にお風呂に入らない?」
「え?」
誠はしばらくアイシャの言葉の意味がわからずにいた。そしてじりじり近づいてくるアイシャだが、すぐにその後頭部にスリッパが投げつけられた。
「くだらねえ事はやめろ!」
投げたのは要。アイシャは振り向きながら表情を変える。そのいかにもうれしそうな顔に要は驚いたように一歩下がる。
「へえ……そう言っておいて実は要ちゃんが一緒に入ろうとか?」
「そんなこと無い!馬鹿も休み休み言え!」
そうして今度こそ客間に向かう要。そこに台所にいた薫が顔を出した。
「誠!ちょっと揚げ物やるから手伝ってよ」
「あ、私もやりますよ」
誠を制するように言ったアイシャだが、薫は優しく首を横に振った。
「お客さんですものねえ」
その表情はアイシャがたぶん役に立たないだろうと悟ったようなところがあった。アイシャはしょんぼりとそのままカウラの隣に座る。
「今日はてんぷらですから」
そう二人に言うと誠は張り切って台所へと向かった。




