時は流れるままに 86
手に取る絵具をしげしげと見つめていた誠に要がかごを持ってきた。
「使えよ」
いかにもぶっきらぼうにかごを差し出す要。そう言われて誠は黙ってかごを受け取る。手にしているのは誠が一目見たときから惹かれていたつやのあるエメラルドグリーンの絵具。そして肌を再現しようと白の様々なバリエーションを確かめる誠。
「結構本格的に描くのね。縁側にでも座ってもらって、そこで直接カウラちゃんのスケッチでもするの?」
アイシャの言葉に誠は首を振った。
「そんなモデルにするなんて言ったら……」
「私が殺す」
断言する要に愛想笑いを浮かべながら絵具を選んでいく誠。
「確か筆とかはあったはずだから……」
そう言って今度は白い紙を手に取る。
「もしかして誠ちゃんの描く萌えキャラ系にするわけ?」
「まあ少しその辺は後で考えますよ」
次々と必要なものを迷わず選んでいく誠にしばらくアイシャと要は見入っていた。店員はかつて大学時代にここに通っていたときとは変わっていた。メガネの小柄な女子高生がバイトでやっていると言う感じの店員は誠が迷わずに画材を選んでいく様をただ感心したように眺めている。
「じゃあ、これでお願いします」
かなりの量になる。その時誠は少しばかり寮に画材を送りすぎたことを思い出して後悔した。
「へえ、いいなあ。アタシも描いてくれないかな」
小声でつぶやいた要。そこに顔を近づけるのは予想通りのアイシャの反応だった。
「なに?要ちゃんも描いてほしかったの?ふーん」
「な……なんだよ。気持ち悪りいな」
一歩下がってにやけた表情のアイシャをにらみつける要。
「ちなみに私は4月2日だから」
「なんだよ!テメエが描いてほしいんじゃないか!」
要の突っ込みを無視するとアイシャはそのまま絵具のコーナーに向かう。誠は苦笑いを浮かべながら必死にレジの作業をしている店員を見下ろしていた。
「えーと。二万八千円です」
店員の言葉に財布を取り出す誠。そしてその隣にはいつの間にかアイシャが紺色の絵具をいくつか持って並んだ。
「あのーお客さん。そちらもですか?」
「ああ、いいわよ私が別に払うから」
財布を手にしたまま誠はアイシャを引きつった笑顔で見つめた。
「なにやってんだかなあ。急げよ!待ち合わせの時間まですぐだぞ」
要はそう言いながら複雑な表情で二人を見つめていた。




