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時は流れるままに 84

 暖かそうなコートを羽織って本来のお姫様的な物腰を取り戻した要は、そのままデパートの回転扉を開いた。誠もアイシャも高級感を感じる店内に少しばかり居心地の悪さを感じながら左右を見回す。アイシャはその中で奮発して買ったときに誠に店に来た化粧品のブランドを見つけて、そちらの方に足を向けようとするが、要はまるで反対のほうに足を向ける。

 宝飾品売り場。しかもどれも地球ブランドの高級品ばかりが展示されているのがわかる。アイシャは値段を見て一生懸命指を折る。誠はまるで場違いで頭を掻きながら要の後に続いた。

「あの……お客様?」 

 誠と同い年くらいの多少派手に見える化粧の店員が、参考展示品のティアラを眺めている要に声をかけるが、まったくそのタレ目は冷酷に値踏みするような表情を浮かべるだけだった。

「駄目だな」 

 そう言い残して要は立ち去ろうとする。その気まぐれな動きに店員も誠達もただ呆れていた。

「おい、どうした!行くぞ」 

 ティアラを見つけたときとまるで別人のようないつもの兵士の姿の要がそこにいる。

「どうしたのよ。もしかしてあんな高いの買おうとしたの?ティアラなんてそんな……」 

 心配そうに声をかけるアイシャにいつもの挑発するような要のタレ目の視線が飛ぶ。

「アタシの上官をやってるんだ。どんな事情でお高く留まった連中の誘いを受けるかもしれねえだろ?その時の準備として恩を売っとこうと思っただけだが……あれじゃあねえ」 

 そう言って要はデパートを出てしまう。

「あんなちんけなもんを飾っとくとは……今度、東都銀座に行くからそん時買おう」 

 誠はアイシャと顔を見あわせた。そんな誠の肩を要が叩く。

「おい、オメエはどうすんだ?指輪でも買うか?それとも……」 

 そう言ってにんまりと笑う要。この界隈の最高級の万年筆を買ったとしてもインパクトで要にかなうわけが無かった。

「おい!もうすぐ昼だぞ。薫さんとカウラと東都金町駅前で待ち合わせじゃなかったか?」 

 そう言って一人先に歩き出す要。アイシャはそれを見ると誠の耳に口を寄せる。

「あの子インパクトで誠ちゃんのプレゼントの印象を潰すつもりよ。贈り物のインパクトで押したって駄目!何か考えて」 

 アイシャの珍しく正確な助言に誠はうなづくがいい考えが思いつかなかった。

「おい!早くしろよ!」 

 完全に仕切る気満々の要。だが誠はこのまま要のペースに飲まれるのはまずいと思っていた。アイシャも要に仕切られるのは気分が悪いと言うのが明らかにわかる表情を浮かべている。

「まだ30分以上あるじゃないの!」 

 せっかちな要に怒鳴り返すアイシャ。彼女の持っていたおもちゃ屋の袋の萌え系美少女の絵が動いて見えた。緑色の長髪。このグループのマスコットの少女である。そしてそのエメラルドグリーンのキャラクターの髪の色は必然的にカウラの髪の色を思い起こさせるものだった。

 その時、誠にひらめきが走った。

「もう一度戻りますよ!」 

 誠はそう言うともと来た道を進んでデパートへと歩き始めた。突然の誠の行動に要もアイシャも驚いたような表情を浮かべる。

「なんだ?何かあるのかよ」 

 要はそう言って駆け寄ってくる。アイシャはしばらく誠を見つめた後、走りよってきてにんまりと笑みを浮かべた。

「何か考え付いたのね」 

 その問いに誠は黙ってうなづいた。

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