時は流れるままに 83
「おい、アイシャ」
「なに?要ちゃん」
さすがに今の状態で誠はアイシャを弁護することはできなかった。彼女はすでに両手に袋を下げていた。そして中身はどうやら自分でなくカウラにプレゼントする目的で買ったらしいということもわかっている。
右の袋の中には服が入っていた。アイシャはそれを選ぶときもカウラのサイズを事前に調べておいたらしく、徹底的に注文をつけた。生地にもこだわり、デザインも店員を泣かせるようなこだわりを見せる。ただしそのこだわりをカウラが歓迎するのはその中身がメイド服でなかったらと言うことになるだろう。
『自分でもらったらうれしいものをプレゼントする。これが大事なのよ』
誠の実家を出ていつに無く張り切っているアイシャの言葉に、要も同意してうなづかなければならなかったが、ここに来てもう要は呆れて口を開くのをやめた。
そしてそのままおもちゃ屋に直行。フィギュアを真剣な目で吟味してその中でも最近人気のファンタジーノベルのヒロインのそれを嘗め回すように見た後、店員を呼んでプレゼント用に包ませた。
「誠ちゃんはどうして買わないの?好きでしょ?」
店を出るアイシャに誠は言葉が無かった。
「オメエなあ、あいつの趣味くらい分かれよ。伊達に二年も付き合いがあるわけじゃねえだろ?」
まったく今の心境としてはこの要の言葉に全面的に賛成するしかなかった。だが、誠は自分の方をアイシャがじっと見つめていることに気づいて動揺する。
「じゃあ、聞くけど。誠ちゃんは何を買うの?」
そんな一言に誠は正直虚を突かれた。カウラと言えば仕事。次が部活動の野球。そして車。
まず仕事に役に立ちそうなものが思いつかなかった。万年筆などはありきたりと言う以前にカウラはあまり無用のものを持ち歩かない主義だ。そうなると文房具の類は没となる。グローブやスパイクだが先週誠と新しいグローブとスパイクを買いに行った以上、ただ邪魔になるだけとすぐにわかる。
車はとても手が出ない。それにワックスやオイルを誕生日にプレゼントするなどと言う話は聞いたことが無かった。アクセサリーなどカウラがつけて喜ばないことは何度と無くシャムと吉田が怪しげなお守りを土産に渡すもののすぐにゴミ箱に捨てる行動からも理解できる。
「なんだよ、仕方ねえなあ。アタシが見本を見せてやるからついて来い」
そう言うと要は目の前にある巨大な百貨店のビルへと歩き始めた。慣れた足取り、悠々と肩で風を切って歩く自信。確かに誠は要に期待をかけた。だが一点、周りの人々が奇異の目で要を見ていたのには理由があった。
寒空の中いつもの黒のタンクトップにジーンズ。彼女が極地での奇襲作戦にも対応可能な軍用義体の持ち主であることを知らない通行人にはその姿は罰ゲームか何かのようにしか見えなかった。
「要ちゃん。コート」
アイシャはそう言って要の手に握られている先ほどおもちゃ屋の前で邪魔だと言って脱いだコートを指差す。それを見て気がついた要はばつが悪そうに誠を見るとすばやくそれを羽織った。




