時は流れるままに 82
「はい、これ。カウラさんとアイシャさん」
薫はそのまま二人に木製の座卓を渡す。そしていつものようににこやかに笑う母に誠は少しばかり安心した。
「ありがとうございます……でも本当にお母様はお若いですね」
受け取りながらのアイシャの言葉。にっこりと笑う薫だが特に言葉も無く、そのまま誠の隣に座った。
「でもクリスマスが誕生日なんて素敵ですよね」
そう言うと薫は茶をすすってうれしそうにカウラを見つめる。
「まあ、特に私の場合は関係ないですが」
薫の言葉に微笑を浮かべながら答えるカウラ。カウラがまんざらでもないときの表情を最近誠は覚えていた。
「でも結構広い庭で……建物も古そうですし……」
「悪かったですね。中古住宅で」
誠はアイシャの言葉に思わず突っ込んでしまう。
「そういう意味じゃないわよ、誠ちゃん。由緒正しいというか、風格があるというか……」
アイシャはごまかすようにそう言うと茶をすすった。そんなやり取りを薫はほほえましく眺めていた。
「そういえば神前一刀流の継承者は現在は薫さんじゃないですか?」
すっかりくつろいでいる要の一言。薫はにこやかに笑いながらうなづいた。
「ええ、私の四代前の遼南の庶子の姫君が始めたという話ですけど」
真剣な表情を浮かべる薫にうなづいてみせる要。
「ほう、じゃあちょっと見せてもらえませんかね。アタシは剣術に疎いんで」
挑発的に吐かれた要の言葉。
誠は知っていた。遼南流剣術の達人であり、薙刀を使ってはあの嵯峨を子ども扱いしてみせる要の母、康子。当然彼女も徹底して鍛えられており、とても剣術に疎いというのは謙遜以外の何ものでもない。
前回の夏のコミケでは雑用ばかりで一戦交えたことも無かったが、今回はそんな用事も無い。腕に自身のある要ならではの挑戦だった。
「それよりカウラさんの誕生日プレゼントはまだお買いになっていないんじゃないですか?とりあえずそちらの方を先にされては」
まるで要の言葉を聞かなかったとでも言うように薫は立ち上がった。それを見てアイシャも立ち上がる。
「そうですね。要ちゃん、行くわよ」
「行くってどこに?」
薫に試合を断られて不愉快そうな要にあきれ果てたようなアイシャのため息。
「決まってるでしょ?買い物よ」
そう言うアイシャに目をつけられてしぶしぶ誠も立ち上がった。
「こいつへのプレゼントか?いいじゃん、そこらの駄菓子屋でメロンソーダでも買ってやれば喜ぶだろ?」
「お前のおごりだったら自分で金を払う」
立ち上がり見下すような視線を要に向ける。
「そんな子供じゃないんだから。そうだ!カウラさんは私と一緒にお買い物しましょうよ。その間に三人でカウラさんへのプレゼントを買っておくって言うのはどうかしら」
自分の提案に自信があるというように薫は胸を張って見せる。
「じゃあそれで。行くわよ要」
アイシャに腕を引っ張られて要はようやく重い腰を上げた。




